第25話・教え伝える難しさ
依頼のゴブリン退治を終えて夕刻前に円形城塞都市リーヤへ戻ったシャロは、事件の主犯であるラニーを冒険者組合に引き渡して詳しい経緯を話し、そのあとで証拠のメモリークリスタルをガリアに預けて冒険者組合をあとにした。
「さてと、早く戻って師匠にも報告しなきゃ。師匠、少しは褒めてくれるかな?」
そんな思いを抱いてちょっとワクワクしながら、シャロはアースラの待つ宿へと戻った。
「――以上が今回の件に関する報告です」
「なるほど、まあ初めてにしては頑張った方だな」
「本当に頑張りましたよ、レッドキャップと戦うなんて初めてでしたから」
「今のお前からすればレッドキャップはかなり手強い相手だっただろうしな」
「はい、凄く強くて怖かったです。あんなに死の恐怖を感じたのは、初めて師匠に助けられたあの時以来でした」
「あの時のお前は恐怖を前に動くことすらできなかった。だが今のお前は死の恐怖を感じながらもそれを乗り越えた、その感覚は忘れるんじゃねえぞ」
「はい」
「しかしまあ、初の一人仕事だから仕方ないとはいえ、解決までに時間を食ったもんだな」
「ええっ、そんなことはないと思いますけど」
「それなら今回の件についてちょいとダメ出ししてみっか。まず一つ、お前は今回の件についての詳しい情報を誰に聞いた?」
「ラニーさんです」
「どうしてそれを冒険者組合のガリアから聞かなかった?」
「それはその、初の一人仕事で緊張しててつい……」
「情報は戦いにおける生命線だっていつも言ってんだろ、その情報を得ずに戦いの場に行くとか、どんな駆け出しでもやらんミスだぞ」
「うっ」
呆れた表情でそう言うアースラに対し、シャロは顔を俯かせるしかなかった。
「いいかシャロ、今回はたまたま運が良かったが、もしもラニーが最初にお前に対して手を下していたら、お前は間違いなく死んでいた。それは分かるな」
「はい」
「なによりガリアからしっかりと情報を聞いてさえいれば、ラニーが怪しいってことにもっと早く気づけたんだよ」
シャロは更にしゅんとしながら顔を俯かせた。そしてそれを見たアースラは、仕方ねえなと言った感じの表情を浮かべた。
「でもまあ、情報が少ない中ではよくやった方だ、それは褒めてやる」
「……それだけですか?」
「はっ?」
「それだけしか褒める部分はないんでしょうか?」
「それだけしかって、これでも十分だろ」
「私、自分の力に自信がないんです、いつも師匠には怒られてばっかりだし」
「あのなあ、お前は俺に褒められるために強くなろうとしてんのか?」
「違いますけど、でも師匠に怒られてばかりだと自信をなくすんです」
「あのなあ、俺は基本的に人を褒めない、だからまともな褒め方なんて知らん、だが今回のお前の戦い方は今までで一番良かった。特にレッドキャップをライトニングバレットで牽制して、フラッシュボムを使用してからの連続魔法攻撃、攻撃後は相手を拘束した上で生死の確認、生きていたからすかさず止めを刺しに行った――この流れは良かったからな」
「本当ですか?」
「嘘ついてどうすんだよ、まあ今回の件の詳しい反省会はあとでやるとして、とりあえずはコレで好きなもんを好きなだけ食って来い」
そう言うとアースラは五千グランが入った麻袋をシャロに手渡した。
「いいんですか?」
「ああ構わねえよ、お前がやった仕事の報酬金から出してるわけだし」
「てことは、私の報酬金は師匠が受け取ったんですか?」
「当たり前だろ、これはお前のための授業料みたいなもんだよ」
「そ、そんなあ、それは酷いですよ師匠!」
「つべこべ言わずに早く行って来い、反省会が始められねえだろうが」
「分かりましたよ、でも報酬金のことは諦めたわけじゃありませんからね」
「わーったから早く行け」
「もう……」
不満げな表情を浮かべたまま、シャロは渋々と言った感じで部屋を出て行った。
「そういえば師匠、どうして私がレッドキャップと戦ってた時の戦い方を知ってたのかな? あとで聞いてみよっと」
ちょっとだけアースラに褒められたことが嬉しかったシャロは、微笑みを浮かべながら猫飯亭へと向かった。




