第24話・やり取りの行方
シャロは今すぐにでもラニーを捕まえたかったが、その気持ちを押し殺してでもラニーに真実を話させる必要があった。
「そんなに怖い顔をしないで続きを聞かせてよ、他にどんなおかしな部分があったのかしら?」
「……他のおかしな点は行商人に一人の死亡者も居なかったことと、あなたが私に『追撃をしよう』と言ったこと、そしてその後、あなたが言ったことが嘘だと分かったことが決定的でした」
「その辺りのことも説明してもらえるかしら、後学のために」
「一つは人を食糧と認識しているゴブリンが、行商人を襲って無事に帰すわけがないというところです。もしもそんなことを可能にするなら、特殊な魔法か魔道具を使って上位種のゴブリンを支配するか操るかして、下位種に言うことを聞かせるくらいしか方法がないからです。そして次にあなたが言った『追撃をしましょう』という言葉が引っ掛かりました」
「それのどこがおかしいって言うの?」
「追い詰められて逃げた敵を追うのは分かります、でもそれは味方の戦力や敵の情報が十分にある場合の話です、それなのにあなたは駆け出しの私に追撃を提案した。それだけでもおかしなことなのに、あなたの言ったことが嘘だと分かりその行動がおかしいとなったらもう、怪しまない方が不思議ですよ」
「私がどんな嘘を言って、どんなおかしな行動を取ってたって言うの?」
「最初のゴブリンたちを倒した時、ラニーさんは私に向かってこう言いました。『二匹のゴブリンが森の奥へ逃げて行くのが見えました』と、だから私はぬかるんだ地面もちゃんと見ていたんです。でもその地面にこの洞窟へ向かうゴブリンの新しい足跡はありませんでしたし、どこに伏兵が居るか分からない森の中をあなたは警戒もせずにどんどん進んで行った。疑わしく思わない方がおかしいですよ」
「あははっ、凄いですよ、レッドキャップをここまで追い詰めた力と言い、その観察眼と思考力と言い、とても駆け出しとは思えない。きっとあなたは凄いマジックエンチャンターになれた、それだけに惜しいわ、こんな所でサヨナラなんて」
そう言うとラニーは右手を前へ出し、ニヤリと笑みを浮かべながら魔力を集め始めた。
――あれはエクスプロード、私の逃げ道を塞ぐつもりね。
「さあ、死ぬ覚悟はできたかしら?」
「最後に一つ聞かせてください」
「何かしら?」
「今のあなたに少しでも良心の呵責はありますか?」
「ふふっ、もしも私が良心の呵責なんてものを感じるんだったらそもそも略奪なんてさせないし、あなたを殺そうともしないと思うけど」
「そうですか……」
落胆したように呟くと、シャロは左手の平へ急速に魔力を集め始めた。
「それじゃあシャロさん、これでお別れね」
「疑似魔法解放!」
「きゃっ!!」
シャロが左手に集めた魔力をラニーに向かって解き放つと、光り輝く多数の輪が一瞬にしてラニーの上半身から下半身までを包んで拘束した。
「い、いったい何をしたのっ!?」
「ライトバインドで拘束しただけですよ」
「そんなっ!? 魔法を撃てる隙はなかったはずよ!」
「隙もなにも、私の魔力で反応するように予めあなたに仕掛けておいた魔法ですから」
「予め仕掛けておいた!? まさか洞窟へ入る前にかけた魔法は強化魔法じゃなくて、フェイクマジックで偽装したライトバインドだったの!?」
「そう言うことです」
ラニーの質問に答えるとシャロはレッドキャップへ再び近づき、その近くに落ちているショートソードを拾い上げ、それを使って今度こそレッドキャップに止めを刺した。
「さあ、これでもうゴブリンを使って悪いことはできません、大人しく町に戻って裁きを受けてください」
「ふんっ、裁判になっても私がやったなんて証拠はどこにもないわ! 無駄なことよ!」
「ああ、それなら抜かりはありませんよ」
そう言うとシャロは腰の後ろに下げていた道具袋から片手で握り込める程の小さな球体水晶を取り出し、それをラニーに見せた。
「これが何か分かりますか?」
「そ、それはメモリークリスタル!?」
「そうです、これにはさっきからの会話が全て記録されていますから、裁判で立派な証拠になりますよ」
「くっ……」
ラニーもこれには参ったのか、悔しそうにしながら顔を深く俯かせた。
「よっし! お仕事完了!!」
こうしてシャロ一人での超危険な初仕事は終わり、町へ戻ったラニーは法の裁きを受けることになった。




