第22話・命懸けの戦い
洞窟の最奥部で思わぬ強敵と戦うことになったシャロは、その素早い動きに翻弄され苦戦を強いられていた。
――予想以上に動きが速い、これじゃあ逃げるのも難しいかも。
レッドキャップとの戦いが始まって数分も経っていないが、シャロは既にとてつもない危機を感じていた。相手の速さが想像以上で、なかなか魔法攻撃を命中させることができなかったからだ。
――このままじゃ確実に追い詰められちゃう、こうなったら逃げの考えは捨てて、全力の短期戦で倒すことに集中するほうがいいかも、凄く怖いけど。
逃げを考えながら戦っても無駄だと結論を出したシャロは、恐怖に飲まれそうになりつつも意識を戦うことに集中し始めた。
「よしっ!!」
大きく気合の入った声と共に意識を戦うことへ向けたシャロは、町で買ったフラッシュボムを道具袋からこっそりと取り出して右手に持ち、空いている左手を前へ突き出した。
「ライトニングバレット!」
シャロは雷の礫を使った多角攻撃魔法を放ち、レッドキャップを牽制し始めた。
そしてシャロの攻撃を素早くかわし続けたレッドキャップが接近戦を仕掛けて来ると、シャロは右手に持つフラッシュボムを迫るレッドキャップの手前の地面に叩きつながら回避行動をとりつつ、一瞬だけ目を閉じた。
「グギャ!!」
地面で炸裂したフラッシュボムが凄まじい光を放つと、レッドキャップの短く濁った大きな声が響いた。
「ライトニングアロー! ファイアボール! 虹熱線! ライトニングバレット!」
フラッシュボムによって視界を奪われ動きを止めたレッドキャップに向け、シャロは間髪入れずに魔法攻撃を撃ち続けた。
こうして約二分間に及ぶ連続魔法攻撃を繰り出し終えたシャロは、視線を外さないようにしながら腰のポーション入れから数本のマジックポーションを取り出して体に浴びせかけ、激しく両肩を上下させながら息を整えていた。そしてレッドキャップの体を焼いた炎と煙が晴れると、そこには体の至る所に大きな傷を負ったレッドキャップが仰向けで倒れていた。
普通なら二分間に及ぶ連続魔法攻撃を受けて無事で済むわけがない、しかしシャロは一切油断をせず、レッドキャップに向けて魔法を放った。
「ライトバインド」
幾重にも重なる光の輪がレッドキャップの体を包んで拘束すると、シャロは警戒しつつも素早くレッドキャップに近づいた。
「あれだけの魔法を受けてまだ息があるなんて」
シャロとしてはあの攻撃で倒したと思っていただけに、多少なり驚きはあった。しかし結果として形勢は逆転したのだから、今のシャロの実力を考えれば大金星と言える。
「圧倒されてちゃいけない、急いで止めを刺さなきゃ」
シャロは腰の後ろに携えていたショートソードを抜き、それをゴブリン族共通の急所である背中の中心部分に突き立てようとした。
しかしシャロがショートソードを両手で持って振り上げた瞬間、洞窟の出入口側から魔力波が収束する様子が瞳に映り、シャロは反射的にその場を飛び退いた。すると飛び退いた瞬間に大きな火の玉がシャロの目の前を横切り、洞窟の壁に当たって弾け飛んだ。
「ちっ、外したか」
大きな舌打ちと声がした方へシャロが鋭い視線を向けると、そこには苦々しい表情を浮かべた見分役のラニーの姿があった。




