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第1話・解き放たれた世界

 長きに渡ってエオスを恐怖で支配していた魔王が多くの人々の協力を得た少年によって倒され、世界は恐怖の鎖から解放された。必死に戦った少年もようやく勝ち取った平和に喜びを感じ、これでみんなが安心して暮らせる平和な世の中になると信じていた。

 しかしその真っ直ぐな願いは一向に叶わず、魔王が倒れてから10年が経った今でさえ、人々が安心して暮らせる世界は実現していない。なぜなら魔王の恐怖から解き放たれた愚か者たちが同族や別種族との間で争いを始め、魔王が支配していた頃よりもエオスは混沌とした有様になっていたからだ。


「こんにちは」


 声がした方へ黒髪の青年が振り返ると、そこには中性的な顔立ちをした少年が立っていた。


「シノブか、最近よく会うな」

「そうですね」

「そういえば、探しものは見つかったのか?」

「いえ、まだ見つかってません、僕もまだ記憶が曖昧なところがありますから」

「そうか、まあいつになるかは分からんが、俺の要件が片づいた時に探しものが見つかってなかったら、その時は手伝ってやるさ」

「はい、その時はお願いします。ではまた――あっ、そういえば最近この近辺で野盗が暴れまわってるみたいなので、気をつけてくださいね――って、あなたにはそんな心配は必要ありませんでしたね」

「ああ、シノブこそ気をつけろよ」

「はい、いざとなれば僕の秘密道具で逃げられると思いますから、それじゃあ」


 シノブはいつものように微笑むと、そのまま街門まちもんの方へ向かって行った。


 ――アイツ知り合った頃から見た目が全然変わってないな、不思議な奴だ。


「それにしても、あれから10年も経つってのに、世の中は何も変わらないな」


 うれいを帯びた表情でそんなことを言いながら、青年は広い空を仰ぎ見た。


× × × ×


「た、助けてくれー!」


 満月と小さな星々が瞬く下にある小さな村、そこは今あちこちが燃え盛る業火に包まれ、村の至る所から野盗たちの下卑げびた笑い声と、村人たちの助けを求める悲痛な叫び声が聞こえていた。


「お、お願いします、どうか娘の命は助けてください! 私はどうなっても構いませんからっ!」

「そうかいそうかい、どうなっても構わんのか、それじゃあ死になっ!」

「うぐっ!?」

「あ、ああ……」


 部屋の中で娘を助けようと必死に叫んでいた母親は、野盗が持つ血濡れた槍で胸を貫かれて絶命し、力なく床へ崩れ落ちる。

 そして男が引き抜いた槍の傷口から鮮血が床に溢れ出す様子を、母親の少し後ろに居た少女は愕然がくぜんとした表情で見ていた。


「さてと、お前はどこを刺してほしい? 頭か? 目か? 胴体か? 手足か? それとも頭から縦に串刺しか? 俺のお勧めは手足だ、どうしてか分かるか? その方が苦しむ姿を長く見られるからさ、クククッ」


 下卑た笑み浮かべながら、男は槍に付いた血を振り払って少女へにじり寄る。


「どうした? 怖くて声も出ねえのか? それじゃあつまんねえな、ビビった声くらい上げてくれないと面白くねえじゃねえか、なあっ!」


 男は逆手に持った槍を少女の右手に向かって勢いよく突き下ろしたが、その鋭い槍先は少女の右手を貫くことなくすぐ横の床に突き刺さり、持ち手のほうから先端へ向かって鮮血が大量に伝い流れ始めた。


「ぐああっ!!」


 それは刹那せつなの出来事で、少女の右手を貫こうとしていた男は無くなった自分の右手首部分を左手で押さえ、濁った叫び声を上げた。すると次の瞬間、愕然がくぜんとしたままの少女は眠るように意識を失いその場に倒れた。

 そして男が痛みで顔を歪ませながらうめいていると、その背後に黒のローブを纏った人物が立っていた。

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