第143話・見栄と虚栄
託された資金では目当ての強さを持つ傭兵を必要数集められないと悟ったアースラは、冒険者組合をあとにし、とある場所を探していた。
――この町に来るのは初めてだが、おそらくここにもあるだろう。
アースラが探している場所とは、民間で結成された傭兵組合で、冒険者組合に登録されている傭兵たちよりも安く雇うことができる。
ただし冒険者組合に登録されている傭兵とは違い、しっかりとした実力管理がされているわけではない。しかし時には冒険者組合にも居ないような実力者が居たりもするので、アースラはその可能性に賭けてみようと考えていた。
「ここみたいだな」
民間の傭兵組合を探し歩くことしばらく、組合の建物を見つけたアースラはその中へと入った。
――どの町にも民間組合はあるが、いつもながら居る奴のゴロツキ感が半端ないな。
民間の傭兵組合は冒険者組合で傭兵を雇うより安く雇えるが、その分だけ難も多い。
例えば実力などは自己申告制なので、見栄を張って実力を偽り、傭兵料を少しでも高くしようとする者も居る。もちろんそんなことをすれば実力に見合わない仕事をする羽目になることもあるので、虚偽申告により傭兵自身が受ける依頼の危険度も高くなる可能性はある。故にそんな嘘をつく者は多くはないが、どこにでも一定数そんな愚か者は存在する。
「よお兄ちゃん、傭兵を探しに来たんだろ? だったら俺を雇わねえか」
傭兵組合の建物へ入るとその近くに居た顔に無数の傷がある、非常に人相の悪い男が声を掛けて来た。
「それはアンタの実力次第だな、まずは傭兵ランクがどれくらいか聞かせてもらおうか」
「俺の傭兵ランクは上級だ」
「ほー、そりゃあ凄いな」
「だろ? これで俺を雇いたくなったろ」
男は誇らしげな顔をするが、そんな男を見ていたアースラの表情は実に冷ややかなものだった。
――筋肉のつき方も中途半端だし、死線を抜けて来たような覇気も感じない、コイツが上級ってのは嘘だな。
これまで幾多の戦いを経験してきたアースラにとって、相手を観察すればそこそこのことは分かる。故にこの男が嘘をついていることも早々に見破っていた。しかしこの手の人物の多くが素直に嘘を認めないのを、アースラは経験でよく知っている。
「そうだな、上級クラスの傭兵なら願ってもない申し出だ」
「そうだろ、それじゃあさっそく俺と契約しようじゃねえか」
「それはいいんだが、俺の目的を聞かずに契約していいのか?」
「上級の俺にできねえことなんてねえから、そんなの聞く必要はねえよ」
「そうか、俺は過食スライムを倒すための傭兵を雇いに来たんだが、それは頼もしいな」
「か、過食スライムだとっ!?」
過食スライムという言葉が飛び出した瞬間、その男は一瞬で顔を青ざめさせた。
「それで、アンタを雇うにはどれくらい払えばいいんだ?」
「えっ!? あ、ああ、そうだな……そ、そうだ、そういえば他の奴にも傭兵をやってくれって頼まれてたのを忘れてたな!」
「そうなのか?」
「あ、ああ、俺くらいの実力者になると、あちこちから雇いたいって奴が来るからな」
「そうか、それは残念だな」
「お、おう、それじゃあまたな」
男は慌てた様子でアースラから離れると、そそくさと建物の外へ出て行った。
――やっぱりあの手の奴にはこれが一番効くな。
意地の悪い笑みを浮かべると、アースラは受付の居るカウンターへ向かい始めた。




