第140話・契約の意味
シャロと思われる人物の話を聞いたアースラは、それを確かめるべくキースのもとへやって来た。
「キース、この冒険者さんたちがお前と話がしたいんだとさ」
「僕と話?」
「ああ、それじゃあ俺はまだ片づけがあるからこれで」
「ありがとうございます」
シエラが丁寧にお礼を言って頭を下げると、男は小さく笑みを浮かべて元居た場所へ戻って行った。
「話ってなあに?」
「この村を襲った野盗たちを始末した奴が居たと聞いたが、そいつの話を聞かせてほしいんだ」
「どうしてそんなことを聞きたいの?」
カルミナ村でシャロに起こった変化を見ていたアースラは、男の話を聞いてすぐにそれがシャロのことではないかと思った。しかし、カルミナ村でのことをシエラたちには話していなかったから、どのように話を進めようかと少し迷っていた。
「俺たちは冒険者だ、もしもこの村に現れたのが危ない奴なら、俺たちも警戒しとかないといけないからな」
「そっか……」
「さっそくで悪いんだが、見たことを詳しく話してくれないか」
「えっとね、背は僕より少し大きいくらいで、明るい茶髪の女の人だった」
――身長と髪色だけじゃ材料不足だが、この特徴だけで判断するならシャロの可能性はあるな。
「何か気になるようなことを言ってなかったか?」
「ううん、その人『大丈夫だった?』って言っただけだから」
「そうか、他に何か気になることとか、特徴はなかったか?」
「うーん……あっ、そういえば、銀色の羽の形をした髪飾りを付けてたよ」
「間違いないか?」
「うん、綺麗な髪飾りだったから」
「そうか、ありがとな」
アースラは麻袋から五百グランを取り出し、それを男の子に手渡した。
「えっ、お金?」
「それは情報提供の礼だ」
「ありがとう! ……あのね、お兄ちゃんたちに頼みがあるんだけど、いいかな?」
「何だ?」
「もしもその人に会うことがあったら、僕が謝ってたって言ってほしいんだ。あの時は凄く怖くて、助けてくれたその人に『化け物』って言っちゃったんだ……でも、僕たちを助けてくれたのはあの人なのに凄く傷ついたと思うんだ。だからその人に会えたら伝えてほしいんだ、僕が謝ってたことと、僕や村のみんなが感謝してたことを」
「分かった、出会えた時はちゃんと伝えておく」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「すみませぬが、あなた方がやって来た冒険者さんたちですかな?」
「ええ、そうですよ」
アースラとキースの話が済むと、そこに杖を持った老人がやって来た。
「突然申し訳ありません、私はこのカリーナ村の村長ですが、話を聞いてはくださらないでしょうか?」
「何だ?」
「もうご存じとは思いますが、この村は昨日野盗に襲われ、このような有様になってしまいました。今は雇っていた傭兵も野盗に殺され数が減り、村の防衛は僅かな数の傭兵と守護の結界だけの状態なのです。ですから新たな傭兵を迎え入れるまでの間、この村を守っていただくわけにはいかないでしょうか?」
――すぐにでもシャロを追いかけたいところだが、このまま放っておくわけにはいかんだろうな。
「分かった、だが俺たちも雇われる以上はそれなりの報酬を貰うぞ?」
「ちょ、ちょっとベル君、こんな時に報酬の話なんて」
「同情心で動くのは簡単だが、これは俺たちと村人たちとの間のケジメみたいなもんだ、だから報酬は支払ってもらう」
「もちろん報酬はお支払いいたしますが、いかほどお支払いすればよろしいでしょうか?」
「そうだな、新たな傭兵が来るまでの期間、一人1日二万グランってところだな」
「一人二万グランですか?」
「ああ、それが支払えるならこの村と村人を守る」
「……分かりました、背に腹は代えられません、その額をお支払いいたしますので、どうか村と村人たちを守ってくだされ」
「分かった、だが俺たちも先を急ぐ身だ、代わりの傭兵は早目に連れて来てもらえると助かる」
「はい、分かりました」
こうしてアースラは村長と契約を交わし、代わりの傭兵が来るまでの間この村を守ることになった。




