第138話・国の事情と食料事情
シャロが野盗に襲われていた村を救ってから1日が経った夕刻、アースラたちは魔法都市アルジェリーク、亜人の国ゲシュテンハルト、アストリア帝国、それぞれの国境線の中心に建てられた共同中立都市、ニュートリーへ向かっていた。
「ベル君、このままじゃ水も食料ももたないよ、どうする?」
「どこかの村か町で補給するしかねえだろ、寝てる間に誰かさんがこっそり食料を食べ尽くしてくれたからな」
シエラの質問に呆れ気味にそう答えると、アースラは右隣に居るフルレへ視線を向けた。
「フ、フルレは悪くないのだ、持って来た食べ物が美味しいのがいけないのだ」
アースラの言葉と視線に責めの気持ちを感じ取りながらも、フルレはプイッと顔を逸らした。
「色々な物を食べたいって気持ちは分かるが、遠出をする時は欲望を抑えてくれ、じゃないといつまで経ってもシャロに追いつけねえからな」
「う、うむ、分かったのだ、これからは気をつけるのだ、ごめんなさいなのだ」
「フルレちゃんも反省してるわけだし、その話はここまでにしようよ。それよりも、ここから一番近い村や町ってどこになるのかな?」
「そうだな、この辺りから一番近い町ならラスティアだが、それでもかなり距離があるし、小さな村落になるとどこにあるのかも分からん」
このエオスにおいて、領地内の町や村落、土地の状態などが詳しく書かれた地図などは一般に出回っていない。なぜならそんな物が出回れば、その情報が他国へ渡り、それが戦争へ繋がる切っ掛けに成り得るからだ。
そんな理由もあり、エオスに存在するどの国においても、民間や個人での詳しい地図の作成は固く禁じられている。
もちろん各国で禁止をしていても、それを破る者は必ず一定数存在する。故に地図作りについては各国で厳しい罰則を作り、無断で詳しい地図作りを行った者に対しては国によって差はあれど、最悪の場合は一族揃って死刑になるという、非常に厳しい内容になっている。
しかし旅人や商人などは町を行き来する上で地図が欠かせないので、そこはそれぞれの国によって作られ許可された簡易地図が使用されている。アースラたちもアストリア帝国領内の簡易地図は持っているが、それには小さな村落などの位置は書かれていない。だからすぐに食料を補給したくても、それが出来ない状況だった。
「そういえばフルレは空を飛べたよな、ちょっと飛んで辺りに村がないか見てくれないか?」
「うむ、分かったのだ」
フルレは抱えていたモコをダークラの上に乗せ、抑えていた魔力を解放して漆黒の翼を出し、そのまま上空へ飛び上がって辺りを見回し始めた。そして遠くを見回した先に見つけた村と、そこに居る住人たちの姿を確認すると、フルレはすぐに地上へ降り立った。
「あっちに村と人間どもの姿が見えたのだが、ちょっと様子がおかしかったのだ」
「様子がおかしい? どういうことだ?」
「焼けた家や壊れた家が沢山見えたのだ」
「えっ!? その村の人たちは無事なの?」
「フルレが見た感じでは襲われている様子はなかったのだ」
「モンスターか野盗に襲われたけど、なんとか村の人たちで追い返した――みたいな感じなのかな?」
「それはどうか分からんが、とりあえずその村に行ってみよう、シャロの行方が掴めるかもしれんし、可能性は低いが補給もできるかもしれないからな」
「そうだね」
「うむ、行ってみるのだ」
こうして三人は行く先を変え、フルレが見た村へと進み始めた。




