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第137話・己が姿

 冷たく凍えるような目で自分を見る異形の姿をしたシャロを目の当たりにしたボスは、そのまま腰を抜かして地面に尻餅を着いた。するとボスは尻餅を着いたまま右手に持った剣をシャロに向けて無造作に振り、恐怖の表情を浮かべたまま必死の形相で後退った。

 そしてそんなボスの姿を見たシャロは静かに右手を動かしてボスへ向けると、何をされるのかを察したボスは剣を捨ててシャロへ土下座を始めた。


「た、頼む許してくれっ! もうこんなことはしない! 奪ったものは全部返す! 俺を助けてくれるなら他の奴のことは好きにしてくれていい! だから俺だけは助けてくれっ!」


 情け容赦なくボスの部下たちを葬って来たシャロだったが、ボスのそんな言葉を聞いて初めてその手を止めた。


「奪ったものを全部返すなんて、本当にそんなことができるの?」

「もちろんできる! だから命だけは助けてくれっ!」

「じゃあ、あなたたちがここで奪った人たちの命を全て返して」

「えっ!?」

「さあ、早く返してよ、奪った命を」

「そ、そんなことできるわけないじゃないか」

「奪ったものは全部返すんじゃなかったの?」

「か、金や物じゃないんだ、命を返すなんてできるわけないだろ」

「そう、奪った命は誰にも返せない、だからあなたたちは知るべきなんです、命を奪われた人たちの恐怖と痛みを。そうでもしなければ分からないでしょ? 他人の痛みや苦しみがどれほどのものかなんて」


 そう言うとシャロは一度は下げた手を再び動かしてボスへ向け、てのひらをパッと開いた。


「ダークカッター」

「ギャアアアアアアアアアーー!!」


 シャロの突き出した右手に周囲の黒い霧が集まり、鋭い刃となってボスの両手首を瞬時に切り落とした。


「痛いですよね? 恐いですよね?」


 ボスはあまりの痛みでシャロの質問に答えることができなかったが、その様子だけで充分にシャロの質問の答えになっていた。


「あなたたちが殺してきた人たちも凄く痛かったはずです、凄く恐かったはずです。この痛みが分かるのに、どうしてあなたたちはこんなことができたんですか? あなたを殺す前に教えてくれませんか?」

「ひ、ひいっ!」


 圧倒的絶望を前にして完全に落ち着きをなくしたボスは、涙や糞尿を垂れ漏らしながら手首の失われた腕を必死に動かし、その場から逃れようとしていた。


「どうして人はここまで醜くなれるんでしょうか……」


 そう言うとシャロは再び右手に周囲の黒霧を集め始めた。


「ダークフレイム」

「グベッ!」


 シャロの放った黒い炎がボスの体を包み込むと、その炎は一瞬でボスを焼き尽くし、灰すら残さずこの世からその存在を消し去った。そして村の中に残った野盗たちを全員始末したあと、シャロは近くの民家の物陰で震えて縮こまっている男の子を見つけた。


「大丈夫だった?」

「ひいっ!!」


 怯えた様子で縮こまっている男の子のもとへ向かい、そっと右手を差し出して声を掛けると、その子は顔を上げて甲高い声を上げ、壁を背に更なる恐怖の表情を見せた。


「どうしたの?」

「こ、来ないで化け物!」

「化け物?」


 その言葉を聞いたシャロは思わず背後を振り返りそうになったが、怯える男の子の視線が自分を捉えていることに気づいた。

 そしてそれに気づいたシャロは、震える男の子の近くにあるガラス窓へと視線を向けた。


「な、何これ?」


 ガラス窓に映った自分の姿を見たシャロは、頭の左右に漆黒の角が生えているのを見て驚愕し、思わず後退った。


「いったい何なの? 私、どうしちゃったの?」


 窓に映る自分の姿にショックを受けたシャロは、未だに震え続けている男の子をその場に残し、村の外へと走り出て行った。

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