第130話・失われた命を取り戻すために
リーガルが処刑された日の夜、シャロはみんなが眠ったあとでこっそりと部屋を抜け出し、そのまま静かに宿を出て行った。
そして翌日の昼過ぎ、起きた時には姿がなかったシャロを心配したシエラが、いつになく焦った様子を見せていた。
「シャロちゃんどこに行っちゃったのかな?」
「二人はリアの行きそうな場所に思い当たる節はないのか?」
「そうだなあ……うーん……あっ!」
フルレの言葉を聞いて記憶を探っていると、シエラは突然何かを思い出したかのようにしてハッとした。
「そういえば、共同墓地から帰る時にシャロちゃんが聞いてきたの『死んだ人を蘇らせることはできないんでしょうか?』って」
「シャロがそんなことを?」
「うん、だからもしかしたらだけど、シャロちゃんは死者を蘇らせる方法を探しに出たのかも、ベル君みたいに」
「ほお、ベルは死者を蘇らせる方法を探していたのか? 初耳なのだ」
「まあ色々とあってな、もっともその方法は未だに見つかってないが」
「ふむ、死者蘇生は魔界でも禁忌の一つとされておるからの、その方法が簡単に見つからないのも仕方のないことなのだ」
「禁忌の一つとされてきた? てことはもしかして、魔界には死者蘇生に関する何かがあるのか?」
フルレの何気ない言葉を聞いたアースラは、滅多に見ない興味の表情を浮かべていた。
「フルレも直接見たことはないが、魔界にあると言われている伝説の魔導書ネクロノミコンには、死者蘇生に関する記述が載っていると聞いたことがあるのだ」
「それは今も魔界にあるのか?」
「いや、ネクロノミコンは遥か昔、メイザス・クロウリーという悪魔が人間界へ持ち去ったと聞いているのだ。だからもしネクロノミコンがまだ存在していたとしたなら、この人間界のどこかにあるかもしれないのだ」
「ネクロノミコンなんて魔導書の存在、聞いたことがなかったな」
「ふむ、ネクロノミコンを手にした者は必ず身を亡ぼすと、魔界ではそう伝えられているのだ、だからその存在がこちらで秘匿されていたとしても何の不思議もないのだ」
「なるほど、だとしたらいくら調べても分からんのも納得だ」
「ねえベル君、もしもそのネクロノミコンを探し出すことができれば、ベル君の望みもシャロちゃんの望みも叶うのかな?」
シエラは久々に表情を明るくし、アースラへ視線を向けた。
「……ネクロノミコンのことは気になるが、今はとりあえず居なくなったシャロを捜すぞ」
「うん、そうだね」
「うむ、リアを捜すのだ」
「でもベル君、シャロちゃんを捜す当てはあるの?」
「アイツが死者蘇生に関する情報を得ようとするなら、情報の集まりやすいアストリアへ行くだろうから、まずはそこへ行く」
「なるほど、確かにそうだね」
「よしっ、準備を整えたらすぐに出発するぞ」
こうして準備を整えたあと、アースラたちはシャロを捜すために円形城塞都市リーヤをあとにした。




