第129話・苛まれる心
時は遡り、リーガルが処刑される2日前、シャロは商店を歩きながらコソコソと買い物をしていた。
――リーヤじゃ死者蘇生に関する情報はまったく得られなかった、だったらもう、ファナティさんの言葉を信じてみるしかない。
ニアを救えなかったことが根深い傷となっていたシャロは、冒険者風の謎の男ファナティの言葉を信じ、魔法都市アルジェリークへ行く決意を固めていた。
そしてファナティから死者蘇生に関する話を他言しないように言われていたこともあり、シャロはアースラたちに黙ってリーヤを出て行こうと考えていた。
――もしもファナティさんの言ってたことが本当だとしたら、ニアちゃんたちを蘇らせることができるかもしれない。それができれば、私は今度こそニアちゃんを守り通すことができる。
ニアを喪ってからずっと気落ちしていたシャロだったが、僅かでも望みが見えたことにより、ほんの少しだが気力を取り戻していた。
「師匠たちにバレないように、買った物は他の場所に隠しておかないと」
こうしてシャロは細かく買い物をしながら買い出した品を人目につかない場所へ隠し、旅立ちの準備を進めていた。そして買い出しを進める途中、たまたま通りかかった場所が闘技場に近かったこともあったせいか、そこから沢山の人たちの声が耳へ届き、シャロは思わず足を止めた。
「リーガルさんの処刑、まだ続いてるんだ」
村ではシャロたちにとても優しくしてくれたリーガルだったが、そのリーガルがニアたちの命が失われる原因となったことを聞いた時、シャロの心はかつてないほど複雑に掻き乱れた。
親しくなった人が大切な人を喪う原因を作った。しかもそれが同じ村に住む仲間だったということが、シャロの心を深く病ませる大きな要因の一つにもなっていた。
シャロは闘技場から聞こえてくる声に耳を塞ぐと、素早く駆け出してその場を離れ、泊まっている宿へ戻ってからベッドの中に潜り込んだ。
「ううっ……」
様々な思いが心の中に渦巻いていたシャロは、被った布団の中で涙を流し始めた。そしてそのまま涙が枯れるのではないかと思えるくらいに泣いたあと、シャロは泣き疲れて眠ってしまった。
× × × ×
『シャロお姉ちゃん! シャロお姉ちゃん!!』
「ニアちゃん!? どこ! どこに居るの!?」
『助けてシャロお姉ちゃん!』
ニアの助けを求める声がハッキリと聞こえ、その声がした方へ振り向くと、そこには胸を剣で刺し貫かれたニアが倒れていた。
「ニアちゃん!!」
その光景を見たシャロはすぐニアへ近寄ったが、あの時と違って抱き上げたニアの体に温もりはなく、冷たい感覚だけがシャロの手に伝わってきていた。そしてシャロはそんなニアの体を抱き締めながら、再び大粒の涙を零し始めた。
『シャロお姉ちゃん』
「ニアちゃん!? 大丈夫なの?」
名前を呼ばれ喜んで顔を上げると、ニアはぐったりとさせていた顔をゆっくりと上げた。しかしそこにあったのは、苦痛に歪む表情で血の涙を流すニアの姿だった。
『お姉ちゃん、どうしてニアを助けてくれなかったの? 何があってもニアを守るって約束したのに』
「っ!? ごめんね、ごめんねニアちゃん、私はニアちゃんを救えなかった……ごめんね……」
シャロは血の涙を流すニアを抱き締めながら、目覚めるまでずっとニアに謝り続けた。




