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第125話・思い知る現実

 猫飯亭で適当な弁当を買って宿へと戻ったアースラは、シエラたちと部屋にあるテーブルを囲んで食事を摂り始めていた。


「どうしたシャロ、食わねえのか」

「その、食欲がなくて」

「それでも少しは食べておけ、体がもたなくなるからな」

「はい……」


 アースラの言葉に促されシャロは目の前にある弁当のおかずを小さく取って一口食べたが、それを飲み込むとすぐに食事の手を止めた。


「シャロちゃん、無理して食べなくてもいいからね? 残しても私が全部食べちゃうから」

「はい、ありがとうございます」


 シャロを気遣って無理矢理に明るく振舞ったシエラだったが、シャロにそんなシエラを気遣う余裕はなく、暗い表情のまま顔を俯かせてしまった。


「シャロ、この町の特別区にある共同墓地にニアたちが埋葬されてるんだが、食事が終わったら行ってみるか?」


 その問い掛けにシャロはピクッと体を反応させて顔を上げた。


「行きます」

「そうか、シエラとフルレはどうする?」

「もちろん私も行くよ」

「フルレも行くのだ、モコはどうするのだ?」

『僕もみんなと一緒に行きたい、ニアお姉ちゃん凄く優しくしてくれたから』

「分かった、それじゃあ食事が終わったら行くとするか」


 こうしてアースラたちは食事の手を早めて弁当を平らげると、すぐに出掛ける準備を進め、特別区にある共同墓地へと向かった。


× × × ×


「ここが特別区の共同墓地なんだ」

「ああ、本当ならカルミナ村に葬ってやりたかったが、管理する者が居なければ動物やモンスターに遺体を食い荒らされるし、下手をしたら死霊が取り憑いてアンデッド化する可能性もあるからな。さあ、墓地の管理所へ行くぞ」


 特別区にやって来たアースラたちは管理所で許可を取り、結界に包まれた共同墓地へと入った。すると墓地へ入った途端にシャロが駆け出し、管理所で教えてもらったニアが葬られた墓へと走り始めた。


「ニアちゃん、助けられなくてごめんね……」


 墓石に刻まれたニアの名前を見てシャロがピタリと足を止めると、その墓地の前で両膝を着いて崩れ落ち、大粒の涙を零し始めた。そしてその様子を見ていたアースラたちは近づき難さを感じながらも、シャロのところへ向かって行った。


「シャロちゃん……」


 墓の前で泣き崩れるシャロを見たシエラは、二人が楽しそうに遊んでいた時のことを思い出してしまい、悲しみのあまり涙を零し始めた。しかし自分が泣いているとシャロをもっと悲しませてしまうと思い、必死で泣き声を押さえようとしていた。

 そしてニアの墓の前でひとしきり涙を流したあと、シャロはゆっくりと立ち上がったが、力の抜けた体は軸が定まらずフラフラと体をよろめかせた。


「シャロちゃん大丈夫?」

「すみません」

「そんなの気にしなくていいから、ほら、私に掴まって」

「はい、ありがとうございます」

「私が体を支えてるからそろそろ宿に戻ろう、ねっ?」

「……分かりました」


 その言葉に小さく頷きながら返事をすると、シャロはシエラに体を支えられながら墓地をあとにし始めた。


「シエラさん、死んだ人を蘇らせることはできないんでしょうか?」

「……ごめんね、それは私には分からない、だから無理とも無理じゃないとも言えない」

「そうですよね」


 ――でもハッキリとした答えがないなら、死者を蘇らせる方法はあるかもしれないんだ。


 この時のシャロは大切な人を喪った者が一度は考えるだろうことを考えながら歩き、それを実行に移すための思考を巡らせ始めていた。

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