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第124話・師匠として

 シエラたちを休ませたアースラは部屋の中心にあるテーブルの椅子に腰かけ、小さく光を放つ輝照石きしょうせき入りのランプの明かりに照らされながら、未だ眠り続けるシャロを見ていた。


 ――今回の件が全て解決したとしても、それで死んだ人が帰って来るわけじゃない。むしろシャロにとっては目が覚めてからが苦しみの始まりになるだろうな。


 この世で最も愛しかった者をうしなった経験があるアースラにとって、シャロがこれから経験するであろう苦しみは容易に想像できた。それだけにこれからのことをどうすればいいのか、考えがまとまらずにいた。


 ――俺が励ましたところで逆効果になるのは目に見えてる、つーか俺にシャロを励ますなんてことができるとは思えんしな。


「くそっ、どうすりゃいいってんだ」


 師匠としてシャロを強くしてやることはできても、心の問題まで解決してやれるかは別の話。しかし初めての弟子であるシャロには出来る限り沢山のことを教えてやりたいと、アースラはそう思っていた。だが今回の件は師匠としての経験が足りないアースラにとって最大級の難問だった。


「――んんっ……」


 そんなことを考えながら時間だけが過ぎ去り、太陽が世界を明るく照らし始めた頃、シャロが小さく声を上げたのを聞いたアースラは席を立ちベッドへ向かった。すると眠っていたシャロが微細な瞬きを繰り返しながらゆっくりと目を開き、側に立つアースラへと視線を向けた。


「し、しょう……」

「気がついたみたいだな、具合が悪かったり痛む部分はないか?」


 目覚めて早々の質問に、シャロはゆっくりと両手を動かしながら自分の体の確認を始めた。


「なんともないみたいです」

「そうか、早速で悪いが一つ聞きたいことがある、カルミナ村での出来事は覚えているか?」

「……はい、覚えています。ニアちゃんを殺されたことや、怒りに任せて野盗を殺したことも」

「その時にだが、体に何か違和感みたいなものがあったか?」

「違和感ですか? ……いえ、あの時はただ湧き上がる怒りの感情に突き動かされていたので」

「そうか……シャロ、とりあえず確認しておきたいんだが、お前が村へ着いた時はまだニアは生きてたのか?」

「はい、でもニアちゃんの声がして振り向いた時にはもう、ニアちゃんの胸に剣が突き刺さっていました。私はニアちゃんを救うことができなかったんです……」


 そう言うとシャロは瞳に涙を浮かべ、掛け布団を両手で引き上げて顔を隠した。


「……いいかシャロ、俺は気の利いたことが言える性格じゃないから思ったことしか口にできん、だからハッキリと言っておく、今回の件、ニアが死んだのはお前のせいじゃない。お前が言った状況を考えれば、例え俺やシエラでもニアを救うことはできなかっただろう」

「でも、私がもっと早く村へ到着できていれば……」

「もしもお前が早く村に着いていれば、間違いなくニアたちを救えてただろうさ、だがあくまでも、そうなっていれば――という『もしも』の話でしかない。そしてそんな『もしも』の話をしたところで誰も救われはしない、むしろお前が傷ついていくだけだ。 ……とりあえず腹も減ってるだろうし、俺は猫飯亭で飯を買って来る。シエラ! フルレ! 起きろっ!」


 こうしてシエラとフルレを叩き起こしたあと、アースラは二人にシャロを任せ猫飯亭へ弁当を買いに向かった。

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