第123話・失われた命の尊さ
リーガルを解放したあと、アースラは宿の裏路地で待機していたジードに声を掛けた。
「奴の監視は任せたぞ」
「それはいいんだが、奴を解放してよかったのか? あの手の奴は絶対に途中で逃げるぞ」
「ああいう臆病者には効果的な嘘を使ったからそれは大丈夫だろうさ」
「ほう、何をしたかは知らんが、お前のことだからエグイことをしたんだろうな。そういえば、奴が詰め所へ向かってる時に『自首すれば命だけは助かる』とか言ってたが、本気でそう思ってるのかね」
「さあな、だがどう思っていようと奴が行き着く先は何も変わらん」
「それもそうか、それじゃあ俺は奴のあとを追う」
「ああ、もしも奴が逃走したり隠れたり嘘の供述をした時はすぐに知らせてくれ、俺がすぐに奴を殺しに行く、まあそんなことにはならんと思うがな」
「分かった」
その言葉に頷くとジードはすぐにリーガルのあとを追って行った。そしてジードを見送ったアースラはシープドリームの借りている部屋へ戻り、そこで事の顛末をシエラとフルレに話して聞かせた。
「まさかリーガルさんが首謀者だったなんて……」
「それよりも首謀者を見逃したとはどういうことなのだ! フルレはベルが始末をつけると言ったから全てを任せたのだぞ!」
「フルレちゃん、ちょっと落ち着いて」
「落ち着いていられるわけがないのだ! これではフルレの怒りを託した意味がないのだっ!」
話を聞いて憤慨していたフルレは、怒りの形相を見せながらアースラに詰め寄った。
「ベル君、何か考えがあってそうしたんだよね?」
「ああ、俺やフルレが手を下さなくても、リーガルは確実に最低最悪の結末を迎えることになる、だから心配すんな」
「訳が分からないのだ、フルレにも分かるようにちゃんと説明するのだ」
「リーガルは自首すれば命は助かると思っているみたいだったが、この件に関してそれは絶対にあり得ないのさ」
「どういうことなのだ?」
「カルミナ村で育てていたムーンティアーはアストリア帝国が特別受注をしている唯一無二の貴重な薬材植物だ、その貴重な薬材植物が採れる村が滅ぶ原因を作ったとなれば、それは国家転覆罪と同様の扱いになるんだ」
「確かアストリアの国家転覆罪って、7日7晩の公開拷問を受けたあとで処刑されるんだっけ?」
「ああ、アストリアの公開拷問はありとあらゆる拷問を休まず続けられる過酷なもので、半日と経たない内に殺してほしくなるような内容だ」
「その拷問とやら、本当にリーガルを後悔させられるほどのものなのか?」
「それについては心配ない、なにせその拷問内容を考えてエミリーに提案したのは他でもない俺だからな」
「えっ!? そうだったの?」
「ああ、もっともエミリーにその提案をした時は引きまくってたけどな」
「女王様が引くほどの拷問ってことは、本当にかなり過酷なんだろうね」
その話を聞いたシエラは頭の中で様々な拷問風景を想像してしまい、思わず顔をしかめた。
「公開拷問と処刑はこのリーヤでやることになるだろうから、気になるならフルレも見に行ってみるといいさ」
「よかろう、ベルがそこまで言うなら確かめてやるのだ」
「ああ、そうしてくれ。ところでシャロの様子はどうだ?」
「相変わらず眠ってるだけでまったく起きる気配がないの、よっぽどショックが大きかったんだと思う、シャロちゃんとニアちゃん、本当に仲のいい姉妹みたいだったから……」
そう言うとシエラの瞳に涙が浮かび、顔を俯かせて涙を零し始めた。
「……シエラ、お前も今日は休め、シャロは俺が見ておくから」
「うん、ありがとう……」
「フルレも休んでいいぞ」
「分かったのだ、モコ、フルレと一緒に休むのだ」
『うん』
シエラは涙を零しながらベッドへ向かい、フルレはモコと一緒にベッドに入った。しかしシエラはなかなか寝つくことができず、眠るまでの間ずっと枕を顔に当て、泣き声が漏れないようにしていた。




