第121話・首謀者
クリムゾンフォレストから円形城塞都市リーヤへ戻ったアースラは、インビジブルの魔法を使って姿を消し、とある人物が泊まっている宿の部屋の前へとやって来た。
「サイレントフィールド」
部屋の前で音漏れを防ぐ魔法を使ったアースラは、中に居る人物に悟られないよう、そっと部屋の中へ入った。するとそこには、ベッドの上で綺麗な箱に並べられた色とりどりの宝石を取り出し、それを見てほくそ笑んでいる一人の男の姿があった。
「予想外のことはあったが、概ね上手くいったな」
その言葉を聞いたアースラはインビジブルの魔法を解き、その人物へ向けて口を開いた。
「ずいぶん景気が良さそうだな、リーガル」
「ひっ!?」
突然聞こえてきた声に体をビクッとさせたリーガルは慌てて取り出していた宝石を箱に仕舞い、声がした方へ振り向いた。
「な、なんだ、アースラさんでしたか、驚かさないで下さいよ」
「悪かったな、それよりもどうしたんだその宝石は?」
「えっと……これはやっていた商売が上手くいって大儲けできたんで、今度はこれを使って商売をしようと購入したんですよ」
「なるほど、それらしい言い訳をするじゃないか」
「どういうことですか?」
「以前から色々な商売に手を出てたみたいだが、そのどれもが失敗、多額の借金を抱えていたらしいじゃないか」
「ど、どうしてそんなことをアースラさんが!?」
「人の粗を探すのは仕事柄得意なんでね、それよりもう一度聞くが、その宝石はどうしたんだ?」
「さっき言ったじゃないですか、これは商売が上手くいって――うぶっ!?」
澄まし顔で嘘をつき続けようとするリーガルの頬に、アースラは強く握り込んだ拳で一撃を食らわせた。するとリーガルは壁際まで吹っ飛び、壁に強く体を打ちつけた。
「うぐっ……な、何をするんですかっ!?」
「嘘をつく相手は慎重に選べ、お前がカルミナ村襲撃を企んだ首謀者だってのはもう分かってんだ。それでもまだ嘘をつき続けるつもりなら、素直に話す気になるようにしてやってもいいんだぞ」
「ひっ!? だ、誰か助けてくれーっ!!」
アースラが殺気に満ちた目を向けながら歩を進めると、リーガルは恐怖に震えながらも大声で助けを求め始めた。
しかし必死の形相で助けを求めるリーガルの声は魔法によって遮られ、どれだけ助けを求めても一人として部屋へやって来る者は居なかった。
「ど、どうしてだ、どうして誰も来ない!?」
「そろそろ気は済んだか?」
「ひいいっ! く、来るなっ! 来るなっ!!」
「ウインドカッター」
大声を上げ続けるリーガルの横の壁に向けて魔法を放つと、リーガルは更に体の震えを細かくしながら涙目になり、恐怖に歪んだ顔でアースラを見た。
「よく聞け、俺は今すぐにでもお前を八つ裂きにしてやりたい、だがその気持ちを無理やり抑え込んでいる。だから無駄なことをしてこれ以上イラつかせるな、俺はそれほど我慢強くないからな」
「た、頼むから殺さないでくれっ!!」
「助かりたいなら本当のことを話せ、包み隠さず全てな」
「は、話せば助けてくれるのか?」
「真実を話した上で治安維持隊に自首するなら、この場は助けてやる」
「話す! こんな所で殺されるくらいなら自首でも何でもする! だから殺さないでくれっ!」
「いいだろう、だが俺のする確認と質問に嘘をついていると判断したら、さっきの魔法で容赦なく首と胴を切り離す」
「わ、分かってる、嘘なんて吐かないよ」
自分が助かる道が示された途端、リーガルは少しだけホッとした表情を見せた。




