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第118話・あの時の言葉

 数時間が経ってカルミナ村からリーヤへ戻ったアースラは、シープドリームの看板娘ユイからタオルを受け取り、濡れた体を拭きながら二階奥にある四人部屋へ入った。

 部屋へ入ったアースラが見たシャロは、ベッドの上で綺麗な服に着替えさせてもらった状態で寝かされ、静かな寝息を立てていた。


「あっ、ベル君」

「シャロを任せて悪かったな」

「ううん、そんなことないよ」


 いつも明るい笑顔を見せているシエラだが、この時ばかりはアースラが見たこともないほど暗く表情を沈ませ、涙に濡れた瞳でシャロを見ていた。

 アースラはそんなシエラからシャロへ視線を移し、頭部から全体を観察するように見渡した。


 ――あの時に見た黒い角はないか、あれは見間違いだったのか? いや、確かに黒い角はあった、それにあの時のシャロから感じた魔力、あれはまるで……。


 いつもと変わりないシャロの姿を見てひとまず安心はしたものの、カルミナ村でのシャロの姿を見てからずっと、アースラは心の中にモヤモヤとした不安のようなものを感じていた。


「ほんの少し前までシャロちゃんも笑顔で、ニアちゃんも元気に走り回って明るい未来を夢見てたのに、どうしてみんなこんな悲しいことを繰り返すのかな……」


 涙を零しながら呟くようにそう言ったシエラの言葉を聞いたアースラは、10年前に魔王と戦った時のことを思い出していた。


「10年前、俺が魔王と戦った時に奴は言った『我を倒せば平和な世が訪れるなどと、お前は本気で思っているのか?』ってな。俺は魔王に『お前を倒せばみんなが平和に暮らせるようになる』と答えたが、奴は俺に『それは幻想理想だ』と言った。そして事実、奴を倒してからは更なる戦乱と混乱、不幸と悲劇が至る所で繰り返され、奴が言っていたような世の中になっちまった。だから奴が言っていたように、エオスに住む生き物は救いようがない愚かな奴らばかりなのかもしれん」

「魔王がそんなことを?」

「ああ、魔王と話したのはあの時だけだったが、今ではアイツの言っていたことも分かる気はする。俺もシエラも、そしてシャロも、多くの人たちが大切な人の命を奪われたんだからな」

「ベル君……」


 苦々しい表情でそう言うと、アースラは踵を返して部屋の外へ向かい始めた。


「行くの?」

「ああ、お前たちの笑顔を曇らせた奴らにはキッチリとケジメをつけさせる。そうしないと殺されたニアたちが浮かばれない」

「分かった、でも気をつけてね」

「ああ、シャロのことよろしく頼む」

「うん」

「ベルよ、フルレとの約束、覚えているのだろうな」

「ああ、フルレの怒りも込めて今回の件に関わった奴らには、これでもかってくらいの後悔と恐怖を与えてやる。死んだ方がマシだってくらいのものをな」

「それならいいのだ」


 フルレの問いに答えたアースラは宿をあとにし、裏の仕事の相棒であるジードと接触するために猫飯亭へ向かった。

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