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第116話・吹き上がる漆黒の憤怒

 カルミナ村での仕事が終了した翌日の夕刻、リーヤの猫飯亭で食事を終えたシャロは宿に戻らず街を散歩していた。


 ――ニアちゃん、まだ泣いてたりしてないかな……。


 カルミナ村での仕事が終わり、代わりの警護要員が村へ来たあとにシャロたちは村を去ったが、村人たちが寂しくも笑顔でお別れを言う中、ニアだけは最後までシャロとの別れにその涙を止めることはなかった。


 ――よしっ、散歩から帰ったらカルミナ村へ行く時間をもらえるか師匠に話をしてみよう、あんなお別れの仕方はやっぱり嫌だし。


 未だ泣きじゃくるニアの姿が頭から離れずにいたシャロがリーヤの町門まちもん近くを通りかかると、一人の男がシャロの姿を見て足をもつれさせながら急いで走り寄って来た。


「シャロさん!」

「リーガルさん、そんなに慌ててどうしたんですか?」

「村が襲われてるんです!」

「えっ、襲われてるってモンスターにですか!?」

「違います! シャロさんたちの前に雇っていた連中がならず者たちを連れて村を襲ってるんです!」

「分かりました! 私はすぐにカルミナ村へ向かいますから、リーガルさんはシープドリームという宿に居る師匠たちにそのことを伝えてください!」

「はいっ!」


 村が襲われているという話を聞いたシャロは門の近くで商売をしている乗用動物の貸屋から一番足の速いウーマを借り、急いでカルミナ村へと向かい始めた。


× × × ×


 ウーマに乗って急ぎ進むことしばらく、シャロの視界にカルミナ村が見えてきたが、近づく間に村からモクモクと黒い煙が立ち昇っているのが見えていた。

 そしてそんな光景を見て焦りを募らせるシャロをあざ笑うかのように村の高い壁を超える高さの紅蓮の炎が上り、それを見たシャロの心臓はとてつもない速さで鼓動を打っていた。


 ――ニアちゃん、みんな、無事でいて!!


 かつてない焦りの中でようやく村の近くに辿り着くと、家を焼く音と共に村人たちの悲痛な悲鳴が飛び交っていた。


「シャロお姉ちゃん!!」


 村に入った瞬間、何よりもその無事を願っていたニアの声が聞こえ、シャロはその声がした方へと視線を向けた。しかしそんなシャロの目に映ったのは、剣を逆手に持った男が地面に倒れているニアの背中に向けて剣を突き下ろし、その小さな体を刺し貫いた光景だった。


「ウインドボール!!」

「ぐあっ!」


 シャロは次の瞬間には魔法を放って男を弾き飛ばし、急いで刺されたニアへ走り寄ってその体を抱き起こした。


「ヒーリング! ニアちゃん! しっかりしてニアちゃん!!」


 シャロは治癒魔法をかけながら必死に呼び掛けたが、心臓を刺し貫かれていたニアの瞳に命の輝きは宿っておらず、涙が浮かんだ両目がうつろに開かれているだけだった。


「そんな……どうしてこんなことに…………」


 シャロは温もりが残るニアの体をぎゅっと抱き締め、血の匂いと共に微かに漂う香水の匂いを感じながら声を震わせて大粒の涙を零し始めた。


「ちっ、くそっ、よくもやりやがったな!」


 ウインドボールを受けた男が頭を左右に振りながら立ち上がると、手から落としていた剣を拾ってシャロに迫り始めた。


「……どうしてこんなことをしたんですか?」

「金のために決まってんだろうが!」

「お金のためだけにニアちゃんを、村の人たちを殺したんですか?」

「それが俺たちのやり方なんだよ!」

「そんなことでニアちゃんを、村のみんなを……うわああああああああああああああっ!!」


 怒りの感情が一気に膨れ上がって弾け飛び、激しい怒りの叫びを上げると、シャロは突然深い闇に包まれた。

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