第109話・遠い昔
シャロたちと別れたあと、アースラはカルミナ村から来たマールたちの買い出しを手伝い、商店とウーマ車の間を何往復もしていた。
「お買い上げありがとうございます! また来てくださいね!」
何度目になるか分からない買い物を終えたアースラは買った荷物を無言で持ち上げ、カルミナ村から乗って来たウーマ車が停まっている専用停車場へ向かい始めた。
――分かってはいたが、これだけの店を回って往復するとさすがにしんどいな。
色々な面で相当鍛えているとはいえ、店とウーマ車の間を何度も往復するという単純作業を繰り返していたアースラは精神的にも疲れてきていた。
――それにしても、あの村の規模でこんなに保存食が必要なのかね。
これも仕事だと言い聞かせながら買い出しを続けていたアースラだったが、買い出す品の中には明らかに無駄だと思える物も多々あった。しかしそれはあくまでもアースラの考えであって、それが本当に無駄な物なのかどうかなど分からない。だからこそアースラは文句の一つも言わずに黙々と働いていた。
「アースラさん少しは休んだらどうだい、ずっと働きっぱなしじゃ疲れるだろ」
「モンスターと戦うことを考えればこれくらいなんでもない」
「はあー、冒険者ってのはタフだねえ」
ウーマ車の脇で休んでいたマールの言葉に短く答えると、アースラは荷車の中に買って来た荷物を積み入れ、再び商店の方へと向かい始めた。そして目的の商店へ向かって歩き進む中、アースラはふと足を止め、前からやって来ている姉弟と思われる二人に視線を向けた。
「お姉ちゃん荷物が重いよぉ」
「もうっ、だから荷物持ちなんてまだ早いって言ったでしょ」
「だって、お姉ちゃんが毎日大変だと思ったからお手伝いしようと思ったんだよ……」
「……そうだったんだ、ありがとね。それじゃあこうしたら大丈夫かな?」
姉は微笑みを浮かべ、弟が抱えている荷物の片側を下から持ちあげた。
「あっ、これなら大丈夫だよ」
「そっか、それじゃあ早く帰ろう、お母さん待ってるよ」
「うん!」
――そういえば、俺もガキの頃にあんな感じの出来事があったな。もっとも俺の場合はリリの力を借りるのが恥ずかしくて、最後まで手伝ってもらうことに抵抗してたけどな。
姉弟の微笑ましい光景を目の当たりにし、リリと過ごしていた頃の懐かしい日々を思い出して笑みを浮かべたアースラだったが、その笑みは幻のようにあっと言う間に消え失せてしまった。
「あの頃は非力で役に立たなかったが、今の俺ならどんな買い物にもつき合ってやれるんだがな……」
悲しげな表情を浮かべてそう呟いたあと、アースラはすぐに表情を引き締め、再び目的の商店へ向かって歩き始めた。




