第10話・深淵の死神
アンデッド化した村人たちを元に戻したアースラは、静かに松明の明かりが漏れ出る洞窟へ向かい、その中へ足を踏み入れて奥へと進み始めた。
そして洞窟へ入ってからしばらく進むと、アースラはその途中で武装した三人の男に遭遇した。
「誰だキサマ!」
先頭に居た男の威圧しながらの問い掛けに答えることなく、アースラは怒りを湛えた鋭い視線を向けて口を開いた。
「外に居た人たちをアンデッドにしたのは誰だ?」
「ああ!? んなことよりキサマが誰なのかを答えろっ!」
「素直に話す気はないらしいな、創造魔法、パラライズミスト」
「「「うぐっ!?」」」
両手の紋章を合わせ突き出した右手から放たれた魔法により男たちは体の自由を奪われ、腰を抜かしたようにして力なくその場に崩れ落ちた。
「な、なにほしやがた」
「魔法で手以外の感覚を麻痺させたが、とりあえず喋れる程度には加減してやってる」
「な、なん、らと」
「ふさ、けんな」
体の至る所が麻痺した男たちは呂律が回らないにもかかわらず、敵意を剥き出しにした目でアースラを見ていた。するとアースラは先頭に居た男へ近づき、その男の左手に向けて思いっきり足を踏み込んだ。
「ぐあぁぁぁぁぁーーっ!!」
「もう一度だけ聞く、外に居た人たちをアンデッドにしたのは誰だ?」
「うぐ、ぼ、ぼすら」
「ボスか、なるほど、お前たちはそこでしばらく大人しくしてろ」
「なんだ今の声は!」
男の凄まじい叫び声は洞窟の奥まで響き渡ったらしく、すぐに洞窟の奥から武装した集団がやって来た。
――そこの三人と今来た奴らを含めて二十九人、体から放出されている魔力を考えると、この場に居る魔法士は七人ってところか。
「コイツ、ふざけた真似してんじゃねえぞ!」
集まって来た内の一人が声を上げると、持っていた剣を振りかざしながらアースラへ迫り始めた。しかしアースラは迫って来る男を見ても戦闘の構えはとらず、左の拳を握り込んで胸の前まで動かした。
そして目前まで迫った男が剣を振り下ろした瞬間、アースラはその左手を素早く振り上げた。すると振り下ろされた剣は大きな音を立てて折れ砕け、アースラは次の瞬間には右手で相手の腹部を数回殴打していた。
「うぐあっ!! く、くそっ、キサマ何をしやがった!?」
「物質強化魔法で左腕に仕込んだ鉄甲を硬化しただけだ」
アースラは左腕の袖を捲り、装着していた厚さ五ミリ程度の手甲を見せた。
「バカな! いくらプロテクションマジックを使ってもそんな薄い鉄甲で剣の一撃を完全に防ぐなんて不可能だ! ましてや剣の方が折れるなんてあり得ない!」
アースラの言葉に反応したのは剣が折れた男ではなく、その後ろで様子を見ていたマジックエンチャンターの男だった。
「そのあり得ないことが目の前で起こったんだ、もうあり得ないことじゃないだろ」
「うぐっ」
アースラがそう答えると、驚きを見せていたマジックエンチャンターの男は魔法の詠唱を始め、それを見た周りの仲間はその男を守るようにして半円状に囲んだ。
「くらえっ! ギガライトニング!!」
詠唱を終えた男が半円に囲んだ仲間の隙間から出ると、すぐに雷撃魔法をアースラに向かって放った。しかしその魔法はアースラに当たりはしたものの、僅かな手傷すら負わせていなかった。
「そ、そんな馬鹿な、第6序列魔法が当たって無傷だと!? キサマ化け物か!」
「今のは魔法抵抗力強化を使っただけで、俺は至って普通の人間だ」
「そんな馬鹿なことがあるか! いくらマジックレジストを使ってもギガライトニングを完全に防ぎきるなんて不可能だ!」
「さっきから不可能不可能って、お前は本当にマジックエンチャンターか?」
そう言うとアースラは魔法攻撃を仕掛けると言わんばかりに右手を突き出した。
「くっ、マジックシールド!」
「ライトニングアロー」
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!」
素早く魔法の盾を展開した男だったが、その盾は雷の矢によってまるで薄紙のように容易く貫かれた。
「うぐっ、な、なぜ第2序列程度を防げないんだ!?」
「例え同じ魔法でも、使用者の魔力や魔力操作熟練度でその威力や効果、発動速度は大きく変わる。そんなのは駆け出しでも知ってる基礎中の基礎だろうが、つまり俺とお前じゃそれだけの実力差があるってことだ」
「そんなバカな……」
「コ、コイツは俺たちが勝てる相手じゃねえ! 化け物だ! 逃げろっ!!」
「クリエイトマジック、パラライズミスト」
「「「「「ぐあっ!!」」」」」
アースラの実力に恐怖した全員がその場から逃走を試みたが、呆気なく魔法によって体の自由を奪われた。
「一人だって逃がすわけねえだろが、そこでしばらく大人しくしてろ、お前らにもあとで相応しい地獄を味わってもらうからな」
言葉にならない呻き声を上げる男たちを残し、アースラは洞窟の更に奥へと向かって行った。




