第107話・専門家のご提案
店主であるライーナの行動に興味を惹かれたのか、ニアはいつの間にかシャロの後ろから離れ、テーブルの上に用意されていく瓶をまじまじと見つめていた。
そんな中、ライーナが棚から選び取った瓶をテーブルの上に二十個ほど置くと、両手をスッと前に伸ばした。
「アロマティックキューブ」
ライーナの伸ばした両手の先に一瞬眩しい光が走ると、次の瞬間には薄く光を反射し、ふわふわと浮かぶ半透明な立方体の箱が出現していた。
「それは何?」
「これはアロマティックキューブと言って、瓶の中にある液体の匂いを適度な状態で確かめていただくための物なんです」
「へえー、すごーい」
興味津々な様子のニアを見たライーナは笑顔を浮かべると、一つの瓶を手に取って蓋を開け、その中身を一滴だけアロマティックキューブの上から垂らした。
すると瓶から落ちた滴はアロマティックキューブの上面をすり抜けて落ち、その中心でピタリと止まった。
「フレグラス」
中心に滴が止まったのを確認したライーナが魔法を使うと、滴がパッと弾けて霧散した。するとライーナは宙に浮かせているアロマティックキューブを動かし、ニアの近くに移動をさせた。
「自分の方へ向けて箱の上で手を扇いでください」
「うん」
ライーナに促され、ニアは薄く光を返すアロマティックキューブの上で手を扇いだ。
「果物みたいな甘い匂いがする」
「こちらはしばらくすると甘い匂いが爽やかな緑の匂いに変わって、またしばらくすると、今度は樹木の匂いに変化するんですよ」
「へえー、これってそんなに匂いが変わるんだ」
「香水は時間経過によって匂いが変わっていく繊細なものなので、私としては使う人がどんな方なのか、それも考慮してお薦めをしたいところですね」
「香水一つにそこまで考えてるなんて凄いですね」
説明を聞いたシャロはとても感心した様子で何度も頷き、そのあとニアの近くに浮いているアロマティックキューブへ近寄り、自分へ向けて手を扇いだ。
「わあー、本当にいい匂いですね、なんだか私も香水が欲しくなってきました」
「ふふっ、それではご一緒に色々な香水の匂いを試していただいて、お気に召した物があればご購入を検討されてはいかがですか?」
「そうですね、そうします」
「では、次の香水を用意させていただきますね」
それから二人はかなりの時間を使って多種類の香水の匂いを楽しみ比べてみたが、結果としてニアの記憶にある匂いの香水は見つけられず、どうしたものかと悩み始めていた。
「うーん、どうすればいいかなあ……」
「せっかくのお誕生日の贈り物ですし、お嬢さんがお母様のためにこの世に一つしかない香水を作ってプレゼントする――というのはいかがでしょうか?」
「ニアが香水を作るの? ニアに出来るかな?」
「はい、大丈夫ですよ、私がしっかりとお手伝いさせていただきますから」
「……それじゃあ作ってみる!」
「では先ほどお試しいただいた香水の中から、お母様がお好きだと思われる匂いを三種類お選びください。それを使って世界でただ一つの素敵な香水を作りましょう」
「うん! 分かった!」
こうしてライーナの提案により世界でただ一つの香水を作ることにしたニアは、そこから日が暮れるまで一生懸命に香水作りに励み、オリジナルの香水を作り上げた。




