第102話・憧れへの切っ掛け
アースラが村人のリーガルと見張り塔で監視を始めてからしばらく経った頃、リーガルが監視をしている方向を見ながら目を細めると、そこに砂埃を上げてカルミナ村へ向かって来るモンスターの群れを発見した。
「アースラさん! こっちからモンスターの群れが来てる!」
「ちっ、さっそくお出ましか」
リーガルの言葉に反応したアースラがその方向を見ると、同種のモンスターが村へ向かって来ているのが見えた。
――数は少し多いがこういった仕事に慣れさせる必要もあるし、そろそろシャロ一人に戦いを任せてみるか。
「シャロ! この方向からモンスターの群れが迫ってる! 村を出て一人で殲滅しろっ!」
「は、はいっ! 分かりました!」
「シャロお姉ちゃん一人で大丈夫なの?」
「大丈夫だよニアちゃん、私がニアちゃんとこの村を守るから」
「本当に大丈夫?」
「もちろん、だから私を信じて」
「うん、分かった、でも気をつけてね」
「ありがとうニアちゃん、行って来るね」
不安そうな表情を浮かべるニアの頭を優しく撫でると、シャロは表情を引き締めてモンスターが居る方へ向かって走り、勢い良く村の高い壁を飛び越えた。
――今のシャロなら問題ないと思うが、とりあえず援護ができるようにはしとかねえとな。
「フルレ! もしもシャロがモンスターを討ち漏らしたら、その時はそいつを倒してくれ!」
「リアの実力なら問題ないとは思うが、とりあえず分かったのだ」
壁を飛び越えモンスターの群れの方へ向かって行くシャロを見たあと、アースラは万が一のためにフルレに援護を頼み、その頼みを聞いたフルレはシャロと同じく壁を飛び越えてその前に立った。
そしていよいよシャロの戦いが始まろかという頃、シャロのことが心配でしょうがないニアは見張り塔の梯子を急いで上り、身を乗り出してその様子を見始めた。
「ニア、こんな所に来たら危ないぞ、家の中に入ってないと」
「ごめんなさいリーガルおじさん、でもシャロお姉ちゃんのことが心配だから……」
「……分かった、そこで見てていいからウロウロしないようにな」
「ありがとう、リーガルおじさん」
――ヴォーパールエレファントの群れか、ざっと見で二十匹くらいかな。
向かって来る敵とその数を大まかに確認したシャロは、短時間で決着をつけるべく両手を前へと突き出して魔力を集め始めた。
「アクアバレット!」
突き出した両手から無数の水球が出ると、その水球は一気にヴォーパールエレファントへ向かって飛び、次の瞬間にはその巨体を撃ち貫いた。するとアクアバレットによって撃ち貫かれた傷から急速に冷気がほとばしり、数秒も経たない内にヴォーパールエレファントの巨体を完全に凍りつかせた。
「ギガガイア!!」
相手が凍りついたのを見たシャロは続けて魔力で巨大な岩の塊をいくつも作り出し、それを凍りついたヴォーパールエレファントにぶつけて粉々に砕いた。
「ふうっ、これで大丈夫かな」
他に迫るモンスターが居ないかを入念に確認したあと、シャロはほっとした表情を見せながら村へと戻り始めた。
「見事な戦いだったのだ」
「ありがとうございます」
シャロはにこやかにお礼を言うと再び壁を飛び越えて村内へ入り、フルレもそれに続いて村内へ入った。 すると見張り塔に上っていたニアが急いで梯子を下り、戻って来たシャロに走り寄って抱きついた。
「凄い凄い! 本当にシャロお姉ちゃん一人でモンスターを倒しちゃった!」
「ありがとうニアちゃん」
「これなら次からの戦いも任せて大丈夫そうだな」
「はいっ! 頑張ります!」
見張り塔から下りて来たアースラの言葉に笑顔を浮かべると、シャロは自信に満ちた表情で力強く答えた。
「でもシャロお姉ちゃんが強いのは分かったけど、怪我をしないようにしてね」
「分かった、怪我しないように頑張るね」
「約束だよ」
「うん、約束するね」
「それじゃあシャロお姉ちゃん、フルレお姉ちゃん、モコ、早くかくれんぼの続きをしようよ」
「そうだね」
「今度は絶対に見つからないのだ!」
「それじゃあ今度は私がニアちゃんたちを捜すから、しっかりと隠れてね? それじゃあいくよ? いーち、にーい――」
「今度はどこに隠れよっかなあ」
「モコ、今度はフルレと一緒に隠れようなのだ」
『うん!』
こうしてシャロによってヴォーパールエレファントの群れは倒され、カルミナ村にひと時の平和が戻った。




