第101話・のどかなひと時
アースラたちがカルミナ村を訪れてから10日が経った早朝、アースラはベッドから起き上がり村長の家に朝食を摂りに行くための準備を始めた。
――すっかりシャロに懐いちまったな。
四人分のベッドが並ぶ宿舎の寝室、そこにあるベッドで寄り添って寝ているシャロとニアを見てアースラは小さく笑みを浮かべた。そして仲の良い姉妹のように寄り添い眠る二人から視線を外すと、そのまま静かに部屋を出て村長の家へと向かった。
「――お待たせしました」
村長の家に入って食卓で待つことしばらく、村長の娘のターニャが朝食を持って現れた。
「アースラさん、ニアが迷惑をかけていませんか?」
「大丈夫だ、むしろニアのおかげでシャロにもいい影響が出ている」
「それならいいのですが、もしご迷惑になるようなことがあればすぐに言ってくださいね」
「分かった」
「ではごゆっくりどうぞ」
アースラの前に食事を並べると、ターニャはそのまま台所へ戻って行った。
そして用意された朝食を食べ終えるとアースラは村の中央にある高い見張り塔へ向かい、長い梯子を登った。
「シエラ交代だ」
「あっ、待ってたよベル君」
「昨日の夜は何もなかったみたいだな」
「うん、穏やかで静かな夜だったよ」
「俺としては助かる話だ、寝てるところを起こされるのは面倒だしな」
「だよね」
「そういえばカルラはどうしたんだ? 一緒に見張りをしてたんじゃないのか?」
「カルラさんは具合が悪そうだったから途中で帰ってもらったよ」
「そうか、それなら代わりに俺を起こしても良かったんだがな」
「ありがとう、でもヴァンパイアは夜の方が調子が良くなるから、ベル君を起こすまでもなかったんだよ」
「そういえばシエラはヴァンパイアだったな、すっかり忘れてたよ」
「ふふっ、ベル君が私を普通の女の子として気遣ってくれるのは嬉しいよ」
「いや、いつもの食事量を見てたら普通の女の子には見えんがな」
「もうっ、どうしてベル君は肝心なところでその話を持ち出すかなあ」
アースラがいつものように意地悪を言うと、シエラは口を尖らせながらふくれっ面を見せた。
「そう言われるのが嫌なら少しは自重すればいいんだよ」
「食は人生における楽しみの一つなんだから、そう簡単にいくわけないでしょ」
「だったらいつまでも俺に言われ続けるだろうな」
「ベル君てば本当に意地悪なんだから。いいもん、ベル君が何と言おうと私はターニャさんの美味しい朝食を沢山食べるんだから、ベーっだ」
シエラは小さく舌を出したあとで梯子へ向かい、ブツブツとアースラへの文句を口にしながら梯子を下りて村長の家へ向かって行った。
「さてと、今日はどんな1日になるかな」
四方八方をぐるりと見渡せる見張り塔から周囲を見渡しながら、アースラは今日が無事に過ぎ去ることを願っていた。




