第100話・懐かしい思い出と変わらない気持ち
カルミナ村へやって来てから4日目の昼過ぎ、アースラとシエラは見張り塔での監視をシャロと村人のリーガル、モンスターが攻めて来た時の退治をフルレに任せ、これからのカルミナ村防衛のために周辺の調査を行っていた。
「こうしてじっくり見て回ることがなかったから知らなかったが、この辺は意外と森が多かったんだな」
「そうだね、これだけ森が多いとモンスターの住処も沢山ありそうだよね」
「だな、森は身を隠すのにも適してるし、どこにどれだけの敵が潜んでるのかも分からん、これは滞在中に結構な数のモンスターと戦うことになるかもな」
「今のところ最初の戦いよりも多い数のモンスターの襲撃はないし、そこまで心配しなくてもいいんじゃないかな」
「慎重派のシエラにしてはずいぶん楽観的な考えだな」
「だってこっちにはシャロちゃんやフルレちゃんも居るし、何よりベル君が居れば絶対に大丈夫だから」
「そりゃまたずいぶんと他力本願なことだな」
「それだけベル君たちを信頼してるってことだよ」
「信頼してくれるのはいいが、それをサボる口実にはするなよ」
「そんなことは考えてないから大丈夫だよ」
「ならいいけどな」
「それにしても、こうしてベル君と二人で歩いてると昔のことを思い出すね」
「どんなことをだ?」
「ほら、昔はこうしてベル君と仲良く一緒に色々な所へ行ったじゃない」
「仲良く一緒に? 俺にはみんなに黙って無理矢理ついて来たシエラの記憶しかないんだがな」
「それは大きな間違いだよ、だって私、毎回お父さんとお母さんにはベル君について行くってちゃんと言ってたもん」
「……その話は初耳だが、それがホントだとしたら、あの時の俺が苦労したのは全部シエラの両親のせいってことになるな」
「苦労したって、私そんなにベル君の迷惑になるようなことしてたかな?」
「してたな」
「えーっ!? 例えばどんなこと?」
「森にハニーワプスの蜜を取りに行った時は、巣から燻し出したハニーワプスにビビッて泣き喚いて刺激した挙句、追い駆け回されて余計な手間を増やしてくれたじゃねえか」
「そ、そんなこともあったかもしれないけど、言うほど頻繁に迷惑をかけてはなかったと思うけどなあ」
「言っておくが、シエラのせいで散々な目に遭った出来事はまだまだあるからな、なんならその数々を今ここで聞かせてやろうか?」
アースラが横目で見ながらそう言うと、シエラは眉をピクピクさせながら表情を引きつらせた。
「あー、いやー、その話はまた別の機会に聞かせてもらおっかな」
「それじゃあ今日の晩飯でシャロたちに話してやろう」
「そ、それだけは止めて! 恥ずかしいじゃない!」
「おやおや? シエラは俺に迷惑をかけた覚えはなかったんじゃないのか?」
「もうっ、ベル君てばホントに意地悪なんだから!」
そう言うとシエラは大きく口を尖らせ、アースラからプイッと視線を逸らした。
「そういえば、どんな時も最後はシエラが俺の腕か背中にしがみついてそのまま村まで帰るってのが定番の流れだったが、今思い出すと確かに懐かしいもんだな」
そう言ってアースラは小さく微笑んだが、そのあとすぐに口をぎゅっと結び悲しそうな表情を浮かべた。するとそんなアースラに視線を戻していたシエラはちょっと寂しそうな表情を見せたあと、突然アースラの左腕に自分の両腕を絡めて抱き包んだ。
「何だ急に?」
「こうしてると昔に戻ったみたいでしょ?」
「これじゃあ歩きにくいだろうが」
「まあまあ、こうして二人で居ることなんて滅多にないんだからたまにはいいじゃない、昔に戻ったみたいで」
「あのなあ、俺たちは遊びに来てるわけじゃねえんだぞ」
「分かってるって、モンスターが出たらすぐに離れるから」
「それはモンスターが出るまでこの手を離さないってことか?」
「そういうことかな」
「やれやれ、今日ほどモンスターに出てほしいと思ったことはないな」
「ベル君てば口ではそう言ってるけど、本当は嬉しいんじゃないの?」
「やっぱりすぐに離せ」
「ふふっ、ごめんごめん」
「ったく、図体はデカくなっても中身はまだまだガキだな」
「失礼だなあ、私がこんなことをするのはあの時からベル君だけなんだよ? ありがたく思ってくれなきゃ」
「へいへい、ありがたく思ってますよ」
「そうそう、人間でもヴァンパイアでも素直が一番だよ」
こうしてシエラはアースラの腕を抱き包みながら歩き、しばらく昔の懐かしい思い出に浸った。




