第9話・創造魔法
薄雲に覆われた月がぼんやりと世界を照らす中、アースラとジードは綺麗な灰色の毛に覆われた四足乗用獣ガロウに乗ったまま、盗賊団のアジト付近にある森の中に潜んで周辺の様子を窺っていたが、アースラは展開している見張りの数を見て顔をしかめていた。
「ジード、宿で聞いた情報とだいぶ違うみたいだが」
「そうだな」
「そうだなじゃねえよ、いったいどういうことだ」
「聞いた情報と実際の状況が違うなんてよくあることだろうが」
「確かにそうだが、だからって情報の正確性を軽視するのはどうかと思うけどな」
「別に軽視してるわけじゃねえよ、それに今回の情報は昨日得たばかりの情報だったんだ、だから俺も驚いてんだよ」
「驚いてるねえ」
盗賊団の総数はボスを含めて三十二名と聞いていたアースラだったが、洞窟周辺にはその三倍近い数の見張りが動き回っていた。
――ジードは情報が昨日の段階で得たものだと言ったが、それにしても数が違い過ぎる。襲った村の人を無理やり手下にでもしたか? その可能性はあるが、でもあの集団、何かがおかしい。
「……ジード、あの見張りたち動きがおかしくないか?」
「確かにみんな同じ範囲を行ったり来たりで妙に規則的だが、持ち場を決めて動いてるからじゃないのか」
「訓練された軍隊とかなら分からんでもないが、それにしたって動く範囲がきっちりし過ぎてる、まるでその範囲だけで動くよう命じられているみたいに――」
自分の言葉にハッとしたアースラは、改めてその集団を凝視した。
――あれだけの人数が居るのに会話をしてる様子がまったくない、それにあの連中、奇妙なくらい生気を感じない……まさか!?
「コンディションアナライズ」
相手の状態を可視化できる第12序列魔法を使ってその集団へ目を向けたアースラは、しばらくするとその表情を苦々しく歪めた。
「ジード、あのうろついてる集団の正体が分かったよ。あの人たちはアンデッドだ、しかもかなり新しい死体を使ってる」
「なんだと!?」
「恐らくだが、最近襲って殺した村の人たちをアンデッドにして使役してるんだろう」
そう言うとアースラは両の拳を強く握り込み、ギリッと上下の歯を擦り合わせた。
「なるほど、それならあの数の見張りにも納得だな」
「……ジード、すぐに終わらせて来るからあとは頼む」
「あ、ああ、分かった」
激しい怒りを漲らせたアースラの目を見たジードは思わず体を震わせた。
そしてアースラは身に纏っていた黒のローブを揺らめかせながら、アンデッドの集団が居る方へと向かい始める。するとその生命力に反応したアンデッドたちが、一斉にアースラの方へとやって来始めた。
「死してなお辱めた奴らには俺がきっちりと死にたくなるような苦痛を与えてやる、だから安らかに眠ってくれ」
アースラは両手にしていた黒革手袋を外して腰のベルトに挟み、両手の平の紋章を重ね合わせた。
「創造魔法、不死者解呪」
重ね合わせた両手を前へ突き出すと、眩しくも暖かな光が一瞬でアンデッドたちを包み込んだ。そして眩しい光が消え去ったあとには、アンデッド状態から解き放たれた村人たちが倒れていた。
「こりゃあ盗賊団の奴ら、楽には死ねないだろうな」
アンデッド化から解放された屍の間を弔うように静かに歩きながら、アースラは盗賊団のアジトがある洞窟へ向かって行った。




