夢中夜
こんな夢を見た。
望んだ全てが手に入り、望んだ立場にいる。
全て思い描いた通りだ。そんな自分の心は衰弱していた。
今にも消えてなくなりたくて、今にも全てに幕を下ろしたくなっていた。
目覚めた僕は絶望した。
あらゆる今を受け入れられず、あらゆる自分を否定している。
そんな自分がやっとの事でたどり着く、理想的な境地。
その場に立ってすら、今よりも苦しい心持ちだったのだ。
いつまでも追いかけてくる自意識から逃れる術を探している。
誰も何もいいやしないのに。
お前になんて期待していない。お前なんて視界にすら入らない。
お前なんて、お前なんて、お前なんて。
精神的自傷行為が好きなマゾヒストなのだろうか。
裏を返せば、自分への期待が大きすぎるのだろう。
期待されない、視界にすら入らない、そんな自分が紛れもない現実で、避けようの無い現実である事を受け入れられず。
いつまでも大器晩成の夢を見る。
いつまでも明日の夢を見る。
あの夢は、きっとそんな偽りの自分を。
あの夢は、きっとそんな現実逃避の自分を、殺しにきた。
今を生きろ。自分を生きろ。全てを諦めろと。
こんな夢をみた。
大切な人達が、僕を見ていた。
見つめられた僕は、死んでいた。
大切な人たちが嬉しそうで。
大切な人たちが楽しそうで。
1番の友達が僕の死体を蹴飛ばした。
好きだった女性が僕の遺体に刃物をつきたてた。
大切だった人達は、みな、笑っていた。
目覚めた僕は後悔した。
大切だという体のいい言葉で誤魔化してきた、ひどい仕打ちを。
好きならば何をしてもいいのか。
仲が良ければ何を言ってもいいのか。
見て見ぬふりをしてきた自分の蛮行は、己の目にしっかりと映っていた。
些細な事で傷つく自分が大嫌いだ。
意図と意味を補完するファンタジーの苦しみ。
誰も何もいいやしないのに。
傷ついた意思表明すらしない。
負けた気がするから。
傷ついた素振りすら見せない。
負けた気がするから。
ならば見せない矜恃を見せるか。
そんな意気地もない。
いつまでも根に持ち、いつまでも心を痛める。
自分と他人がどうしようもなく別の生き物である事を認めながら、実は認められていない。
あの夢は、きっとそんな偽りの自分を。
あの夢は、きっとそんな現実逃避の自分を、殺しにきた。
今を生きろ。自分を生きろ。全てを諦めろと。
こんな夢を見た。
なんだか分からないけれど、僕は満ち足りていた。
良くは分からないけれど、僕は幸せだった。
目覚めた僕は自殺した。
薄れゆく意識の中、幸せだった。
今を逃すまいという自分自身が。
幸せを望む自分自身が。
もっとも身近な殺人者だった。
あれ以来僕は夢を見ない。