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私をはじめ他はみんな黙ってしまっていたけど、隣国の王女は特に気にした様子もない。

空気を読めないのか、読まないのか。分からない人である。

とはいえ、いつまでもこの話をされても困るだけなので、私は即座に頭を下げた。


「えっと……ごめんなさい」


もちろん、お断りの意味である。

隣国の王女にはきちんと伝わったらしく、唇をひん曲げて顔全体で不満をあらわにした。

王女がその顔はどうなの?と思わなくもない。可愛らしいけども。


「ちょっと。まだうちの国のアピールが始まってないのよ?」

「……というか、王女殿下。本心ではそんな風に思ってませんよね?」

「あら」


王女は一転、意外そうな顔をした。そういう機微に疎そうに思われていたんだろうか。

視界の端にいるエミリちゃんも若干感心してるみたいな顔だし。


「どうしてそう思うのかしら?」

「……その返し自体がもう、そのお答えでは?」

「あっはは!」


なんとも豪快な笑い方だった。いや、可愛らしいんだけれども。


「この国の皇太子ともあろうお方が、とは思っていたけど……殿下が苦戦するのも当然のようねぇ」

「……」

「……」


その辺、ナイーブなので本当に止めてほしい。

隣国の王女は皇太子を見たようだったけど、私は皇太子の方が見れなくなった。色々ありすぎてそれどころではなかったので、うやむやになっていたのを、思い出してしまったのである。しまった、っていうのもおかしいけど。

というか、隣国の王女にまでその辺の事情──全部ではないと思いたい──が知られているというのはどうなのだろう。若干頭を抱えたくなった。ところで、


「……姉様。そのくらいにしたら?」


突然聞こえてきた声に、息が詰まった。もう少しで悲鳴が喉をついて出てくるところである。危ない。


(なんでどいつもこいつも突然出てくるわけ?!)


少しばかり苛立ちまじりで声の主に顔を向ける。そして、再び声を抑える羽目になった。大声が出そうだったからである。


(だれ?!?!!)


「あ、シーちゃん」


(シーちゃん!?!!)


考えることは同じだったらしいエミリちゃんと、すごい勢いで目が合った。どうやら、私の聞き間違いやら覚え間違いやらではないらしい。

隣国の王女は、確かにこう言っていたはずだ。


──私のシーちゃんはね、可愛くて優しくて、本当に賢いのよ!


「……」


エミリちゃんと同時くらいに、隣国の王女とその『シーちゃん』に目を向ける。

そして、上から下までじっくり見てしまった。不躾なのは重々承知だったけども。

まぁ、賢いやら優しいやらは見た目だけでは分からないからいいだろう。問題はその見た目である。


その肌は、色白な王女がべったりくっついているせいもありなお浅黒く見え、呆れたように笑うその目は細くつり上がっており、服を着ていても分かるほど腕やらは太く逞しく、ここにいる誰よりも、背が高い。なんなら多分、そんじょそこらの誰よりも、高い。


「……」


今、声なんてなくても、多分今、エミリちゃんと通じ合ってるだろう。あと、多分変な顔をしてる兄とも。

心の声は同じように重なったはずだ。


(いや、どう見ても、可愛くはないでしょ!!)


王女の話から、勝手に儚げ美少年を想像してしまった私たちが悪いのか、隣国の王女のブラコンが極まっているせいなのか。もう全然分からない。


「シルヴィオ・カラム・スティアラ。レーヴァルトの皇太子殿下へご挨拶申し上げる」


完全に脳やらがフリーズしている私たちをよそに、姉曰く可愛いらしい弟王子は、皇太子の元へ歩みより、軽い礼をとった。

まぁ、腕に王女がしがみついていたので、格好はついてなかったけど。

皇太子がすぐに立ち上がる。


「出迎えもなくすまない……スティアラから、罪人を引き受けるために使者が出るとは聞いていたが、まさか王子自ら出てくるとは思わず……」

「しとやかとは言いがたい姉を一緒に引き取るために来たようなものなので。お気になさらず」

「えぇ~、なにその言い方、ひど~い」

「……でもそうだろ?」

「まぁ、確かに、おしとやかではないけどぉ」


本当に思ってるのか、依然として王女は王子の腕にしがみつきながら、きゃらきゃら笑っている。なんだろうこの、バカップルを見てしまった、みたいな感覚は。

王子は色々とそのままで、皇太子へ淡々と告げる。


「……すでに罪人は引き受けました。正式な訪問ではないので、このまま姉共々お暇させていただくことになります」

「あ、ああ……」

「皇太子殿下、他の方々。そういうわけなので、シーちゃんと一緒に、国へ帰りま~す」


急展開すぎる。私たちも慌てて立ち上がった。すると王女がおもむろに近付いてきて、私の両手を掴んだ。


「お嬢さん」

「えっと、はい」

「お嫁の話はともかく、国へ来てほしいのは本心だから、いつでもいらっしゃいね」

「えっと……はい」

「あと、ヴァルティス公爵令嬢は面白かったから、うちのお嫁どうですか、って伝えててね」

「……え?!えっと、それは、あの、伝えません」

「あはは!」


本当に掴めない人である。

すると、唐突に後ろから王子が変なものを見る顔で、王女の顔を覗き込んできた。


「……姉様。まさか、まだ俺の嫁探しとかなんとかって言ってるの?」

「ええー、だってシーちゃんのお嫁探しは大事なことでしょ?」

「それは姉様がなるんだから、探さなくていいって言っただろ!」

「えっ、」


流石にこらえきれなくて声が出る。なんか色々とっちらかっているから、とりあえず色々待ってほしい。


「……誰が、何になるから、なんて?」


エミリちゃんがまるで、声が出せない私の気持ちを代弁するかのように、ぼそっと呟いた。

そう。それそれ。







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