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ことの始まりは五年前。

マルク・リディガーは、ある組織に所属したのだという。

組織の名前は『ディアレデルの黒』

皇太子は続けた。


「調べてみると『運命の女神ディアレデルの名のもとに、国のため、一切の闇を引き受ける』という信念のもとに、身分を問わず集まった者たちの組織らしいことが分かった」

「国のため、ですか……?」

「……実態は、国のためと大層な言葉を並べて正当化させ、それが汚いことでも平気でやるという集団だけどね」


ディーが吐き捨てるように言う。この様子だと、本当にとんでもない組織みたいだ。

それなのに、そんなところに、リディガー様は所属していたというのか。攻略対象なのに?


「……マルク・リディガーは、そこで生物兵器を造る使命を与えられたらしい」

「生物兵器……って、まさか、あのおかしな生き物ですか?」

「そうだ」


曰く。

近く、東にあるツェーデ国と戦争が起こる。我々は、ディアレデル様が万が一にも心を痛めぬよう、備えなければならない。


「『そのために、我が国に勝利をもたらす聖獣を造りあげるのだ』マルク・リディガーは、その使命のもとに、ずっと、その生物兵器を造っていたんだと、話をしてくれた」


しかし、学園に入学すると、なかなか隠れて生物兵器を造ることは難しくなる。

ある日迷い込んだ先で、地下通路と、なんともまあおあつらえ向きの空間を見つけるまでは。

そこがマルクの作業場所になった。


「そして……数ヶ月前、アンリエッタ・ソフィレに、それが見つかってしまった」


マルクは焦ったという。

まだ起きていない戦争の話をするわけにも、ましてや自分の所属する組織や使命の話をべらべら話してしまうことも出来ない。

どうしたものかと考えあぐねているところに、アンリエッタは予想外のことを囁いた。


「……」


皇太子はそこで開きかけていた口を閉ざした。よっぽど言いにくいことなのだろうか。

代わりというように、ディーが口を開く。


「『どうせ生き物で化け物を造るなら、人間でやるのはどう?ちょうど邪魔な子たちがいて、困っているのよね』アンリエッタ・ソフィレは、そう言って、その邪魔だという生徒を次々と地下へ連れてきたのだと、言っていた」


言葉が出なかった。

どうして、そんな酷いことを考えられるのだろう。

話をしているときなんか、普通の、まぁちょっと男前の、綺麗な令嬢だったのに。


「……もちろん、マルク・リディガーはそれをしなかった。流石に非人道的過ぎると、ね」


だが、こちらは半ば脅されている身。彼女に逆らって、そのまま生徒たちを学園へ戻すわけにはいかない。マルクは考えた末、生徒たちを学園の外へ逃がすことを考えた。


「でも、それは、アンリエッタ・ソフィレには、お見通しだった」


彼女は仲のよいある令嬢たちへ頼んで、生徒たちを隣国へ連れて行かせたという。


「……奴隷として」


その仲のよい令嬢たちというのが、例のスティアラ王女の侍女たちだったというのだ。


「……スティアラでは、近年ようやく人身売買を禁止する法が出来たの。難しくはあったけど、徐々になくなってきていた。はずだった。なのに、ここ数ヶ月でやたらとそういう市場がまた活発になったのよね。何度取り締まっても復活したわ。なんとか出所を探ったら、この国だっていうじゃない」


市場に出回っているのは、よりによって貴族たちの通う学校の生徒たちだと分かった。

身分の上下はあろうと、他国の貴族である。本来なら、そう簡単に人身売買の市場にかけられるものではない。

そこで、自分の国の貴族たちの関与が認められた。


「……裏で悪どいことをやっている、なんて噂の域を出なかった腹黒貴族どものね。これまでは、そう簡単に手は出すことが出来なかったけど、人身売買に手を染めていたとなれば、黙ってはいられないわ。なにより、うちのシーちゃんが心を痛めているんだもの!大問題だわ!」

「し……シーちゃん……?」


思わずといった感じでエミリちゃんが繰り返した。気持ちは分かる。今の話の流れで出てくるフレーズとしては、あまりにも場違いだったからだ。


「シーちゃんはシーちゃんよ。私のシーちゃんはね、可愛くて優しくて、本当に賢いのよ!」


いや、聞きたいのはそうではなく。


「……多分、隣国のシルヴィオ・カラム・スティアラ王子のことだと思う……彼女の弟君だ」


皇太子がぽつりと付け加えてくれた。

なるほど。隣国の王女がブラコンだということはよく分かった。


「だからね、人身売買なんて、姉様が撲滅してあげるって約束したの。これ以上私の可愛いシーちゃんが悲しむのを見ていたくなかったからね。そしたら、父王が隣国へ行けと言うから、ちょうどいいかと思って、この学園に潜り込んだのよ。やっぱり、根本からどうにかしないといけないじゃない?ついでに、怪しい家のあの子たちを侍女として連れて来たから、どう動くか見張っていたんだけど……まぁ、早めに尻尾を出してくれて助かったわ」


侍女たちは、浚った生徒たちを隣国へ運ぶ役目を担っていたという。まず、国へ入られなければ、人身売買もなにもないからだ。

疑惑があるならともかく、普段、貴族の令嬢の大荷物を確認することなどほとんどない。こうしてまんまと、生徒たちは隣国へ運ばれていった。


「全く。小賢しいったら」


侍女たちの話をあらかじめ聞いたのかもしれない。

隣国の王女は、ふん、と鼻をならした。






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