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「……」
皇太子やロイが通れないだろう細い抜け道を通り抜けて、数分は経っただろうか。そこ以外は比較的広めの道幅だったので、私とセルシア様は並んでリディガー様の後ろを歩いていた。
侍女二人は、私たちの後ろに続いている。
「……セルシア様、大丈夫ですか?」
すでに疲れた様子のセルシア様に声をかけた。他でもない皇族が、よりによってこんな足元が悪いような場所を長時間歩くなんて、本来あり得ない。
ロイがぎりぎりこの道を通れたら、セルシア様をおぶってもらえたのに。それとも、危険だけど、皇太子とロイのところにいた方がよかったのか。
そんな考えが顔に出ていたらしい。セルシア様は、疲れた顔をしながらも笑って「大丈夫」と言った。
「今までロイドがおぶってくれていたから。お姉さまは?」
「私は大丈夫です。多少鍛えてるので」
令嬢としてはなかなかアウトな発言なので声を落として言った。セルシア様は「まぁ!」と驚きながらも笑ってくれたので、よしとする。
と、歩きながらもセルシア様の笑顔に和んでいた私の後ろから、すごい勢いで、侍女の一人がリディガー様の肩を掴んだ。
「リディガー卿!」
驚いてセルシア様とともに足が止まる。
な、なにごと?
「道が違いますわ!」
「……」
「ちょっと!!」
高い声が不躾に放たれても、リディガー様は背を向けたままだった。リディガー様がいくら他よりも小柄な方とはいえ、男の身体だ。侍女は必死に振り向かせようとするようだが、うまくいかないみたいだった。
「リディガー卿!」
「……」
私は怯えるセルシア様の手を改めて強く握り直した。目の前の状況をうまく把握できない。
リディガー様が道案内をかって出ていたのでついてきたわけだけど、侍女方も道を知っていたのだろうか。
(でも、道が違うってなに……?)
「……セルシア様、なんだか様子がおかしいので、来た道を引き返し……」
「それは出来ないわ!」
「?!」
侍女の一人が私たちの前に立ちはだかった。
令嬢に失礼だとは思うが、その顔がなんとも凶悪で、更に頭が混乱する。
「貴方たちには、行ってもらわないといけないところがあるから」
「……いくら隣国の方とはいえ、皇女殿下へなんて態度です。貴方方はスティアラ王女殿下の侍女でしょう。スティアラ王女殿下の顔に泥をぬるに等しい行為ですわ」
どんな思惑があるにせよ、スティアラ王女は留学でこの国にやってきている。そんな王女の侍女が、私はともかく、皇女であるセルシア様へまで不遜な態度をとっているなんて考えられない。責任は全て王女にいくからだ。そんなことを、分かっていないわけがないのだが、侍女は依然、目の前に立ち塞がったままである。
しかも、なんともおかしそうに、くすくす、笑って。
(……なに?)
「大丈夫なのよ。貴方たちは、今の状況を誰にも話したり出来なくなるから」
「……」
(あっ。これやばいやつだ)
何度も危機的状況に遭っていれば嫌でも分かってしまう。逃げるなら、今だと。
「っ!」
じり、と後退したところで、いつの間に背後に回られたのか、リディガー様に腕を取られた。後ろ手に回されて、上手く身動きが出来ない。
「お姉さまっ!」
セルシア様をなんとか目で制す。セルシア様にまで被害が及んだら大変だからだ。
私は一度、ダンッと音を立ててリディガー様の足を踏んだ。なんの反応も返ってこなかったけど、今の状況に不満があることは伝わっただろう。
「っ……リディガー様」
「……大人しくしてください」
「どうしてこんなこと!」
「……」
リディガー様は答えなかったけど、リディガー様と侍女二人は、間違いなく、三人グルになって何かをするつもりだ。
何をされるかは分からないが、侍女の顔と言葉から察するに、あまりよろしくない現状である。
(ん?ちょっと待って……)
リディガー様は、攻略対象じゃなかっただろうか。
キャラが大分変わっているとはいえ、攻略対象なのは間違いないし、変わるわけもない。それが、実は悪いやつでしたー、だなんて展開が、あり得るんだろうか。
(なにかの目的があって、悪い方に潜入してるとか……?そういえばディーも人身売買の場に女装までして紛れ込んでたっけ)
でも、未だに掴まれた腕は痛い。
だから、こんな状況で、リディガー様が攻略対象だからというだけで、この人は安全と信じて行動することは出来なかった。
(もう!変な地下通路に落ちたってだけで最低なのに、今度は一体、何に巻き込まれてるっていうの?!)
そして私は、色々ありすぎて、この地下通路に落ちてから、最も命の危機に陥ったその原因を、すっかり忘れていたことを知る。
「────!!」
「?!」
驚いたのは全員だ。セルシア様だけが、よく分かっていないのか、胡乱げに眉を潜める。
それと、ほぼ同じくらいだった。
爆発音に似た大きな音に合わせて、壁が、なくなる。いや、なくなったように見えた。
そして、現れたのは。
もう、絶対に会いたくなかった、例のおかしな生き物だったのだ。




