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3





あまりにも急だったので、口をかぱりと開けたそのまま、リディガー様の背中を見送ってしまった。


(え……っ、なんで?)


生き物の鳴き声らしいものに驚いたんだろうか?それだったら、一人で行動するなんて危険過ぎるのに。それに、私たちみたいに上から落ちてきたんなら、なおさら一緒に行動したほうがいいと思うんだけど。


「リーリア?どうしたの?」

「え、いや、あの……リディガー様が、何かに驚かれたのか、一人向こうへ走っていってしまったのです」


これには皇太子も怪訝な顔をした。

ですよね!


「……向こうになにかあるのかもしれないな。セルシア達を見つけたら、行ってみよう」


特に反論もないので頷く。

助けがくるのを待つ方がいいんだろうが、なにせ、変な生き物がまたいつ現れるか分からない。ここに留まっているのはむしろ危険だろう。


「行こう」


自然に手が差し出された。別に断る理由はないので、大人しく手を重ね ると、ぐっ、と力強く引かれる。


「……」

「……」


あら?なんとなく気まずい?

おかしな沈黙が二人の間に落ちて、なんだかそわそわした。

冷静になってくると、先程までの皇太子とのやり取りが思い返されて、頭を抱えたくなるのだ。気がたかぶっていたとはいえ、なんか、すごいことを言ったし、言われたような……。


(……リーリア、意識したらだめよ!)


依然、危機的な状況である。今は色々と、反芻するべきではない。


「いいから、さっさとしてちょうだい!」

「「……!」」


と、突然声が聞こえて、何故かお互い手を離してしまった。別にエスコートみたいなもんなんだから、やましくもなんともないはずなのに。

だが、特に指摘する人もいないので、変な感じになって、私はちょっと目を反らし、皇太子はわざとらしく咳払いをした。

声の主たちは、それどころではないようだったけど。


「……!セルシア様!」


声の主は、セルシア様だった。ロイに背負われて、こちらの方に向かって来ているのだが、なにやら──揉めている。


「……」

「……なんか、揉めて、ます……?」

「……そうみたいだね」


揉めている、というか、セルシア様が一方的にきゃんきゃん言っているというか……。いや、ものすごく可愛らしいんだけど。

状況が分からなくて、皇太子と二人、セルシア様たちを見つめていると、やっとこちらの存在に気付いたのか、セルシア様がロイの肩に手をかけて伸び上がった。


「リーリアお姉さま!お兄さま!」

「うわ、ちょ、皇女殿下、危ないですから!」

「ロイド!早くしてちょうだい!」

「分かりましたから!ちゃんと掴まってて下さいって!」

「……」

「……」


えーと、

なんかずいぶんと、仲良しじゃない……?





ロイはしっかり私たちの傍まで来てから、セルシア様を降ろした。

セルシア様は、地に足をつけるなり、そそくさと私に駆け寄ってくる。


「セルシア様!」

「お姉さま!」

「どこか痛いところはありませんか?お怪我は?」

「大丈夫よ!お姉さま達も大丈夫?」

「……はい!」


皇太子は足と手を痛めているっぽいけど、愛しい妹の前でわざわざバラすこともないだろう。

私も少しばかり腕が痛むが、これを言うのは、先程のやり取りをまるっと話さなければいけなくなるので、避けたほうがいいと思った。今の状況下では、あまりセルシア様に心労をかけたくない。

まぁ、なんにせよ、先程まで気を失っていたセルシア様が元気そうでなによりだった。


「あの生き物に追われていたのか?」


皇太子がロイに問う。

そうだ。皇太子が私を庇って穴に落ちる前まで、あの変な生き物に追われていたんだった。皇太子が穴から引き上げられた時点で、生き物に加え、ロイたちもいなくなっていたわけだから、そう考えるのも妥当だろう。


「はい。ですが、途中で岩影に隠れてやり過ごしたところ、すぐにいなくなりました」

「そうか、妹は怪我もなく無事なようだ。守ってくれたんだよね?ありがとう」

「いえ……ただ、その……少々、気を損ねてしまったようで……」


ロイは顔色を窺うように、セルシア様に視線を向けた。対するセルシア様は、ぷいっ、と子どものように顔を背ける。なるほど、気を損ねているのは本当らしい。


「セルシア、」


咎めるように、皇太子がセルシア様を呼ぶ。それでも、セルシア様は顔を背けたままだった。


「……」


でも、近くにいる私には、セルシア様が真っ赤になっているのが見えたので、皇太子がこれ以上言い連ねないように制して、セルシア様の手を引いた。男性陣に背を向けて、少しだけ声をひそめる。


「セルシア様?うちの兄がなにか気に障ることをしたんですか?」

「……お姉さま」

「はい」

「ロイドは女ったらしだわ!」

「……はい?」

「可愛らしいだの、綺麗だの、つらつらと出てくるんだもの!」

「……」

「さっきだって、私、歩けるのに、足元が悪いからって、背負ってくれて」


(えー……と、)


「薄暗いし、急にこんなところで目が覚めて、よく分からなくて、本当は怖かったんだけど、お兄さまもリーリアお姉さまもいないくて、自分だけでは心細いだろうけど、すぐに見つかるから安心してくださいとか、ずっと話しかけてくれて、」

「……」

「……つ、つまりね、リーリアお姉さま。別に怒ってるわけじゃなくて……は、恥ずかしいのよ……」


でしょうね!






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