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6





今まで色々な目に遭ってきたけど、気絶したのは初めてかもしれない。

意識を取り戻した私は、そんなことを考えながら、天井を見上げていた。


(天井……?)


「気がついた?」


ぼんやりしたままでいると、すぐ近くで声がして、急激に理解する。第四庭園が揺れたこと。皇太子に助けてもらったこと。かと思えば、急に地面がなくなって、落下したこと。

思わず、がばっと起き上がった。


「……っ!」

「リーリア。そんなに急に起き上がったら危ないよ」

「いえっ!あ、はい。いや、というか、殿下、お怪我はないですか?私たち、落ちてましたよね……?」

「確かにここは結構な地下みたいだけど、ほら、向こうのほうが坂になっているのが見える?だから、下に落ちたのは最初だけで、後は滑り落ちてきただけなんだよ。大丈夫」

「……」


とはいえ、私が全くの無傷で、痛むところもないのは、皇太子が庇ってくれたからだろう。それを証明するかのように、皇太子の制服はあちこち薄汚れているし、小さく破けているところがあるから。


「……殿下。本当に、お怪我はないんですか?」

「大丈夫」


怪我はない、とは言い切らないので怪しいけど、これ以上問い詰める訳にもいかない。

皇太子は涼しい顔をして、これ以上私に口を開かせないためか、おもむろに立ち上がった。


「さて、リーリアも起きたことだから、とりあえずここを移動しようか。もし、また人が落ちてきたら僕らが下敷きになりかねないからね」

「は、はい、」

「はい」

「ひっ?!」


ずっと皇太子と二人だと思っていたので、背後から声が聞こえて、驚きで声が出る。慌てて振り返ると、すぐに呆れたような顔のロイを見つけた。


「ろ、ロイ……いたの?」

「まぁ、はい」

「だったら黙ってないで……っ!セルシア様?!」


ロイに意識を向けると、すぐ傍らに横たわるセルシア様を見つけて、慌てて駆け寄る。意識がないようだ。


「セルシア様……っ、」

「大丈夫だよ、リーリア」


肩を掴まれて支えられる。皇太子だった。


「ちゃんと確認したけど、怪我は特になかった。気を失ってるだけみたいだ」

「……そうなんですね。よかった」


ぱっと私から見ても、やっぱり怪我はなさそうだ。落ち着いて見てみると呼吸も穏やかだし、なにより、皇太子が妹のことでいい加減なことを言うはずがないから、本当に大丈夫なんだろう。私はほっと息をついた。


「……リーリア。気がついたばかりで色々混乱してると思うけど、話は移動してからにしよう」

「あ、は、はいっ」

「皇太子殿下。皇女殿下は私がお連れします。触れてもよろしいですか?」

「うん、許す。ロイド、よろしく頼むよ」

「はっ」

「リーリアは大丈夫?」

「へっ、いや、はい!全然大丈夫です!」

「そう」


ロイの皇族に対する礼儀作法がしっかりしていたのに面食らって、皇太子への返事が遅れた。私が慌てて返事をすると、皇太子は歩を進める。私と、セルシア様を抱きかかえたロイも後に続いた。


(ロイがあんなこと言うなんて……もしかしなくても、兄に叩き込まれたんだろうなぁ)


兄、ロイにスパルタすぎない?まぁ、結果役に立ってるからいいだろうけど。多分、兄もそう言うと思う。

ロイは、私が考えていることが粗方分かったのか、目が合った瞬間、なんとも言えない顔をした。





とりあえず、上からなにかが落ちて来そうな気配がない、見晴らしのいいところに腰を落ち着けた。

皇太子の隣にロイが座り、その傍らにセルシア様が横たわっている。私は皇太子の向かいに座り込んだ。


「……多分、ここに落ちてきたのは僕ら四人だけだと思う。すぐに確認したけど、他に人はいなかったから」

「……」

「原因はまだはっきりと分からないけど、突然第四庭園の地面が崩れたかで、その上にいた僕たち四人が落ちた、ということだと思う」


なにもそんな、ピンポイントで崩れることないのに。まあまあ広かったあの庭園で、よりによって皇太子とセルシア様がいるところが崩れるなんて。兄が上に残っているとしたら、今頃、学園をあげて大騒動になっているはずだ。すでに文化祭どころではないだろう。


「……まぁ逆を言えば、上に残っているアヴェルなんかの助けがあるってことだから。それまでの辛抱だよ」


(確かに……でも)


「お兄さまたちは、この場所が分かるでしょうか……?」


周りを見てみると、人工的に作られたような壁が見える。天井もしっかりしているし、どこかから光が差すのか、薄暗くはあれど、地下のはずなのに真っ暗ではない。

つまるところ、この空間は過去、なにかに使われたか、今現在もなにかに使われているかの空間なんだろう。けど、学園にこんなところがあるなんて、私は知らなかった。


「……アヴェルはどうか分からないけど、アウクリア先生なら分かると思うよ」

「アウ……?あ、ディー……いえ、ええと、先生がですか?」

「そう。もともと、この学園が昔、皇宮だったのは知っている?」


私は首を横に振る。初耳だった。


「今の皇宮が出来るずっと昔の話だけどね。昔ここは皇宮だった。でも、皇宮が今の場所に移ると、この場所は学園として使われることになったんだ。広大な土地が必要だったからね。まぁだから、この地下は、ここが皇宮だったころの名残みたいなものだよ」

「名残ですか?」

「そう。皇宮にはいざというときのために、隠し通路や隠し部屋が存在してるんだ。だから、ここも隠し通路の一つだと思う」

「隠し通路……」

「うん。学園になった今では特に必要ないから、今は使われていないはずだけどね。でも、通路の場所や大体の入り口なんかは一部の人間にだけだけど、伝えられてる。アウクリア先生もその一部だよ」

「そうなんですね……」


兄は、ディーを呼んできてくれるだろうか。まぁ、なんとかしてくれるだろう。

とにかく、地下の隠し通路みたいなところに落ちるなんてトラブルは起きたけど、このまま待っていればなんとかなりそうなので安心した。


(……流石に、なにも起きないよね……?)


この上、トラブルの上塗りは勘弁願いたいところだ。いくら運が悪いといっても、ほどがあるだろう。

そう。だから、突然、皇太子の表情が厳しくなったのも、ロイと顔を見合わせて、なにやら頷き合っているのも、大したことではないのだ。


「……リーリア。そのまま静かに、ゆっくり、こっちにおいで」

「……」


大したことでは……。


「……ッ!!」


やめておけばいいのに、皇太子の視線の先──私の背後を見てしまった。咄嗟に出そうになった悲鳴は、皇太子の掌が塞いでくれる。


「────」


(なにこれ……)


聞いたことがない、恐らく、鳴き声に、息が詰まる。

見たことのない生き物が、目の前にいた。

ライオンのような頭。体は鱗で覆われていて、翼がある。それは、四つ足で立っていて、目線の高さは見上げるほど。


(あ、あれ、なに?なんか、前世であんな感じの想像上の生き物がいたような……ケルベロス、みたいな……いや、あれは三つの頭のやつか……)


じゃあ、あれは、なに?






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