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そうそう!文化祭の案内を生徒会長がしてくれることになったんだけれど、国王、皇妃両陛下の名代で急遽私が来ることになったの。それで、妹であるエルディ嬢にも一緒に文化祭の案内を引き受けてもらいたくて。ということで、もう、連れて行っても大丈夫かしら?そう?ありがとう。
皇族パワー全開の美しい笑顔でそう言われて、断れる人はいないだろう。
現に、ヴァルティス様をはじめとする令嬢方は、若干ひきつった笑顔だったものの、こくこく頷いて私を解放してくれたのだった。
「セルシア様!」
どうにかこうにか移動した先は校舎に続く渡り廊下だ。文化祭真っ只中である今は、逆に校舎のほうが人は少ない。
私は遠慮なくセルシア様の名前を呼んだ。セルシア様はにこにこと私の手を取る。
「リーリアお姉さま。びっくりした?」
「しましたよ!おっしゃってくれていたら、お出迎えしましたのに」
「ふふ。お姉さまをびっくりさせたくて、お兄さまにも内緒にしてもらったの。大成功ね」
セルシア様は皇太子へ笑顔を向けた。私は若干笑顔がひきつる。皇太子に会えたら逃げたことを謝る、とは思っていたけど、流石に心の準備が整っていなかった。
「……で、殿下、お久しぶりです」
「……うん」
「ええと、先程は、お話を合わせてくださり、助かりました」
「いや、あれは、セルシアがやったことだから……」
「……」
「……」
うう。なんでこんなに気まずいのかしら。そして私は、謝るだけなのに、どうしてこうも言葉が出てこないのか。
「……」
つんつん、と制服の袖が掴まれた。その主は考えるまでもない。
「セルシア様?」
名前を呼ぶと内緒話をするように口元を掌で覆うので、話しやすくなるように身を屈める。
だが、内緒話というには若干大きいのでは?という声量で、セルシア様は話し始めた。
「実はね、本当は両陛下の名代はお兄さま一人だったの。なのに、お兄さまはどうしても私に一緒に来てほしいって」
「は、はあ、」
「ふふ。その理由って、またお姉さまに逃げられるのが怖いからなのよ」
「……っ、」
ものすごく複雑な心境になった。また逃げるんだと思われているのが心外だという気持ちと、そう思わせてしまった罪悪感と、色々セルシア様に知られてるなんともいえなさで。
「……セルシア、セルシアさん?あのね、全部聞こえているんだけど?」
「聞こえるように言っているんですけど?」
「……」
「……」
ああ。セルシア様がものすごく楽しそうだ。皇太子の顔がげんなりしている。
その様子に、話の内容はともあれ、和んでしまったのも無理はないと思う。相変わらず仲良しだ。
「さぁ、リーリアお姉さま。折角来たんですから、早速案内してくださいな。まずは生徒会長のところね!」
「えっ、ええと……」
セルシア様は私が方向音痴だということは知らないんだろう。私に案内してもらう気満々だ。
生徒会室なら何度も通っているので行けないことはないけど、文化祭という人が行き交っている中を、果たして無事に案内出来るだろうか。
割と真剣に悩んでいると、小さな笑い声が聞こえた。皇太子である。
「ごめん。急に難しい顔をするから……」
「い、いえ……」
全然平気だから、美しい顔で覗き込まないでほしい。皇太子は不自然に咳払いをして、セルシア様に視線を移した。
「……セルシア。生徒会長のところは僕が案内するから。一人でさっさと行くんじゃない」
「じゃあ、お兄さま、早くしてくださいませ!」
「分かったから。え、っと、リーリア」
目の前に掌が差し出されて、思わずきょとんとしてしまう。
「君も一緒に行こう」
「え、えと……はい」
この状況で掌を差し出される意味は分からなかったけど、断る理由もなかったので大人しく手を掴んだ。
五秒で後悔した。
「……」
「……」
なんか、急に恥ずかしい。
私の手を引いて前を行く皇太子の耳が赤くなっているのを見つけてしまって、さらに気恥ずかしさは増した。
え、もしかして、兄と合流するまでずっとこうなの?どうしよう?
内心パニックになっていると、皇太子と繋いでいる手に何かがぶつかってきて、そのまま手が離れていった。
(あ……っ)
かと思えば、ぎゅ、と温かい手が私の手を掴む。
「セルシア……」
犯人はセルシア様だった。手刀の真似をして私と皇太子が繋いでいた手を強引に離し、代わりに私と手を繋いだらしい。
「お兄さま。私を差し置いてリーリアお姉さまをエスコートするのは早いですわ。お兄さまは早く案内してくださいませ」
「……はいはい」
再び始まる容赦のない兄妹のやり取りに、はは、と笑ってしまったけど、内心ではセルシア様は救世主だ。助かった!
「お姉さま、」
「え?」
そうして歩き出して、そんなに間もないときである。
今度こそ、案内をするため少し前に出た皇太子に聞こえないくらいの声量が、耳元へ届いた。
「今日ね。お兄さま、リーリアお姉さまと話が出来て、結構嬉しいんだと思うの」
「……」
「もちろん、私もね!」
「セルシア様……」
「だからね、リーリアお姉さま。お姉さまの時間を、今日は私たちにちょうだいね?」
うっ。なんて純粋無垢な美しい笑みなのか。令嬢方に向けた営業みたいなのではなく、心からの笑顔を向けてくれてると、分かっているから。こんなのに逆らえるわけがない。いや、逆らおうとも思わない。
「もちろん、どこへでもついて参りますわ!」




