2
よくわからないテンションのリディガーさまは、生徒会の別の仕事を思い出したのか、急にはっとして兄を引きずっていった。なんだろう、どこかになにかの切り替えスイッチでもあるんだろうか。よくわからない人だ。
私は気をとりなおした。
まあ、来年のことはともかくとしても、予想をいい意味で裏切ってくれた文化祭は、楽しみで仕方ない。
「…………ねぇこれ本当にすごいよね?こんな規模の文化祭なんて」
「まぁそうね」
エミリちゃんはロイがいるところでも猫をかぶるのを止めたらしい。まぁあれだけ盛大にバレてたら、今さら猫をかぶり直すのも白々しいというものだ。くだけた口調で私に同意して、すぐに困惑したように眉を下げる。
「……まぁ、あの辺がちょっと怖いけど」
「……あぁ」
エミリちゃんのいう「あの辺」は、興味津々で会場をうろうろしている新入生ですら遠巻きにしているので、よく見えた。
「公爵令嬢のティーサロンと、隣国の王女のスイーツカフェだったかしら?」
「……」
「また、そんな似たような店を出さなくてもいいだろうにねぇ……」
そうなのだ。隣国の王女が夏の休暇明けすぐに学園へ編入してきてから、こういう、地味に周囲のメンタルにくる火花の散らし合いは、様々な場面で勃発していた。気付いたのは中間考査が終わって、心に余裕が出たからだ。気付かなければよかったのにと、ちょっと思った。
今回は、文化祭で出す店の人気集めでのバトルといったところなんだろう。そんな気を遣う状況で、ティーだのスイーツだのが楽しめるはずもないだろうに。
「……殿下は大丈夫かしら」
「……」
「って感じ?」
皇太子は、現在学園に来ていない。文化祭が始まるまで、公務を理由に休学しているというのだ。
というのも、あからさまに逃げてしまった二、三日後のこと。あれだけ言われて流石に放置出来なかったので、ロイを引き連れて、セルシアさまが教えてくれた皇太子の好きなガトーショコラを持参して、お詫びに行った。その先で、ディーから教えてもらった情報である。
まさか皇太子を直接呼び出せるわけにもいかず、私はまず、ディーに取り次いでもらうべく高等科へ向かった。ロイは高等科の教師を呼び出すほうが微妙なのでは、とか言ったけど、だって皇太子よ?たかが伯爵令嬢風情が声をかけられるはずもない。それこそ、麗しきお姉さま方に睨まれるのがおちだろう。
まぁ、ともかく、そんなこんなでディーを呼び出したわけだが、聞けば目的のお方は、すでに皇宮へ戻っており、学園にも寮にもいかなった。
ディーがいうことには。
『ほら、学園にいたらいくらなんでも、スティアラ王女の相手をしないわけにはいかないでしょう?かといって、彼女が特別だとかいう印象を相手や周りに与えるのもよくない。ふふ。勘違いされたくないお相手もいるしねぇ?』
私は無表情で返した。反応したら敗けだ。
『しかも公爵令嬢にも周りをうろつかれてちゃ、気疲れもするってものよ。あからさまに邪険にも出来ないしね。まぁ、私的にはそんな中で、誰かさんにすたこら逃げられちゃったことがよっぽとショックだった、ってのもあるんじゃないかと思ってるけどね。ふふっ』
勘弁してほしい。
「……そりゃ、大変でしょうね。どちらを贔屓に、ということが出来ないだろうし、そういう文化祭なら、皇太子への色んなもののアピールかすごいだろうしね」
「……」
「……なに?」
「別に、なにも?向き合うって、せっかく勇み足になったのに、肝心の殿下と会えなくなるなんて、予想外よねぇ、って思っただけ」
それはなにもでもなんでもないのでは?と、思ったけど、全くその通りだったので、反論の言葉なんて出てくるわけもない。
「……まぁ、文化祭期間は戻ってくるって言ってたわけでしょ?一日二日で終わらないし、少しだけでも、どこかで話せるんじゃない?」
「……エミリちゃん」
「……」
「それものすごく、願いが叶わないフリっぽいんですけど」
「……やっぱり?そういえば、あんた運悪いんだったわね……」
「……」
(せめて、この間の件の謝罪だけは出来ますように……)
私は切実にそう願……うのをやめた。
神頼みは大体叶わないものなのである。




