13歳、行事と災難はセットなんですか?!
──しっかり殿下と向き合ってみることにします!
と、元気よく意気込んだはいいけども、まあ、そううまくはいかないもので。
「なにこれ……」
私のその小さな呟きは、そこにいるほとんどの生徒の内心と、同じものだったと思う。
長期休暇明けの中間考査も終わり、学園は文化祭のムード一色。
私は、胸を弾ませていた。
(貴族の学校の文化祭ってどんな感じだろう……)
平民もいるとはいえ、ほとんどの生徒が貴族である。貴族は労働みたいなことはしないだろうな、というのがこの世界での私の認識だったので、文化祭といっても現代みたいにクラスとかで出し物とか、そういった感じではなくて、どこかの有名な劇場とかがきての、芸術鑑賞会みたいになるのかなと思っていた。
ら、全然違った。
「すごい……」
目の前に広がるのは、ちょっとした城下町だ。小さいけれど色々なお店が建ち並ぶ、ちゃんとした。
「えー、ここが文化祭の本会場になる場所だ。今見える店のほとんどは、上級生がそれぞれ有志で集まって、家の特産品なんかを広めるために作られている。ちなみに、君たち新入生も来年からは主催者に回れるが、まぁ、今年はなにも気にしないで、文化祭を楽しんでくれ」
私やエミリちゃんを含む新入生へ文化祭について説明してくれるのは、我が兄である。イベントごとの取りまとめなんかは生徒会が行っているので、新入生への文化祭の説明なんかも生徒会の仕事らしい。
どおりで最近はロイが駆り出されるくらい忙しそうなわけだ。こんな大規模盛大な文化祭なら仕事もさぞ多いことだろう。無理もない。
「この学園には色々な貴族がいるからな。中には商会を持ってるところもある。上級貴族にでもここで顔を広げておけば、後々の役に立つというわけだ。そういう意味では、文化祭は絶好のチャンスだな。店を出すのは有志だけとはいえ、そりゃ盛大になるだろ」
文化祭の説明が一通り終わって、新入生がはけた中、私とエミリちゃんとロイはしみじみと会場を見つめていた。ら、いつの間に近くにきたのか、兄が別に聞いたわけでもないのにそんなことを言う。
「……お兄さまは参加されないんですか?」
我が家は商会を持ってもないし、別に広めたい特産品とかもないけど、それならなおさら、そういうことをしなければいけないんじゃないかと、なんとなく思った。だって兄、伯爵家の後継者だし。
「……見れば分かるだろう?俺は生徒会で手一杯だ」
「はあ」
確かに、見れば分かる。
「我が家のことは来年からのお前に任せるよ。なんか分からんが、面白そうなことをして、ぜひ注目を浴びてくれ」
この兄、なんて無茶なことを言うのか。
「おにい、」
「それはいいですね!エルディ嬢なら、とてもいいアイデアを出してくれるでしょうから!」
「……リディガーさま……」
いたんですか。
兄の後ろから、よく分からないテンションでリディガーさまが出てきて、ぎょっとするより力が抜ける。
リディガーさまは、なぜかキラキラしたようなオーラを纏って、胸に手を当てた。軽い敬礼だ。
「……」
「ぜひ、このマルクにお手伝いをさせてくださいね」
「い、いや……まだ参加するかも分かりませんから……」
この人はなんでこんなにグイグイくるのかしら。
リディガーさまが私をこの世界の運命の女神と崇めている事実を知ってしまった歓迎会のパートナーお誘い事件──私にとってはある意味事件である──以来、リディガーさまとはあまり話をしていない。合間にエミリちゃんと拉致・監禁されてるので。
なのに、未だにこんな感じだとは。
少しばかり遠い目になるのも無理はないと思う。
「……やっぱり、マルクちゃんが、マルクちゃんじゃないわ……」
エミリちゃんは、ぼそりと呟いた。ちょっとだけ物悲しそうである。そうよね、可愛いキャラのはずが、インテリ眼鏡どころか、変人もついてくる感じなわけだから。
「おいおいマルク。うちの妹はまだ新入生だぞ。気が早すぎるだろう」
いや、兄が言い出したせいもあるんだけど。兄は自分をしっかり棚に上げて、リディガーさまに呆れたように言う。
「はっ、そうですよね。すみません、エルディ嬢」
私の心中をお察ししてくれないリディガーさまは、殊勝に謝ったかと思えば、にっこり笑った。
「では、来年ですね!」
私はにっこりと笑いを返す。もちろん、返事はしなかった。




