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思わず血の気が引いた。生徒会室にくる前、兄に気付かなかったときの比じゃない。なんせ色々口をすべらせてしまっているので。
回らない思考で、せめてどう誤魔化そうかと考えていると、兄は呆れたように私の目の前で手を振る。
「あー……いい、いい。説明はいらん。お前がおかしなことを言うのは今に始まったことじゃないからな」
「……いや、その言い草は、ちょっとどうかと思いますけど……」
とはいえ突き詰められて困るのはこちらなので、文句はごにょごにょと誤魔化した。
「……まぁひとつ言いたいのは」
「……?はい」
「なんでもかんでも自分のせいだというのは、無理があるだろうということなんだが」
「……は、はぁ……」
「いいか?ロイがうちに来たのは、そもそも俺が連れてきたからだろうが。それに、公爵家に行かなかったのも、ロイが自分で行かないと言ったからだぞ。ロイから聞いたんじゃなかったのか」
兄の言うとおりだ。ロイも、兄の後ろでそうだそうだと言わんばかりに頷いてる。
「……聞きました」
「まぁ確かに、お前がいなかったら俺はロイを連れてはこなかっただろうというのは確かだが、そのもしもを考えて、意味があるか?」
「……ないですね」
「だろう?それから、マルクのことだが、いんてり眼鏡ってのがよく分からんが、あいつがああいう風なのは自分でそうしたからだろう。お前はただのきっかけだ。運命の女神に例えられて混乱したのかもしれんが、実際お前は全く関係ないだろう」
まぁ、言われてみれば、インテリ眼鏡形成にはっきり私が関わってるわけじゃない。小さい頃会ってるわけでもないし。
平たく言うと、関わっていたのは、リディガー様にも嫌みなことを言っていたらしい家庭教師だ。
「……そうですけど……」
兄は話を続ける。
「それから、皇太子だ。お前が自分で言っているとおり、皇太子には選ぶ権利がある。言い方はよくないが、選びたい放題だな?でも、その上で、お前に自分の想いを告げた。そうじゃないのか?」
「……」
私は返事をしなかった。でも、今までの話もあってか、兄はもうそういうことなんだと理解したらしい。その上で話を進めていく。
「それを、違う相手を好きになる運命だなんだのと、お前は。そんなのがお前に決められるものか、馬鹿者」
「……」
そのとき、私はようやく、私が一番、この世界がゲームの世界で、皇太子やらが攻略対象で、エミリちゃんが主人公だということにこだわっていたということを理解した。
エミリちゃんにはものすごくえらそうなこと言ってたくせに。
私は、ちょっと特殊な前世を覚えている、ただの伯爵令嬢ってだけなのに。
ゲームの中の世界だなんてとんでもない。この国で、みんな普通に今、生きているというのに。
なんだか、ものすごく反省した。
のだけども。
「とまぁ、ここまでは話を聞く限りものすごくお可哀想な殿下のための台詞だ」
「へっ」
兄は今までと表情をがらっと変えて、あっけらかんと言った。なんだろう、この感じ、エミリちゃんもやってた気がする。
「お兄さまとしては、お前はまだまだお子さまでいてほしいので、このまま混乱しておいてくれというのが本音だな」
兄はそう、ものすごく悪い笑顔で言った。
「……」
あ。ロイが苦い顔で口を結んでる。多分私も同じ顔してるんだろうな、と思った。
「いつまでも立ってたらなんか疲れたな。まぁ座りなさい、リーア。あ。そっちの子も座るといい」
そういえばずっと立ったまま話をしてた。エミリちゃんも、私の後ろで立ったままだったらしい。私は慌てて席を勧める。
エミリちゃんは、ものすごく複雑そうな顔をしていた。そりゃそうだろう。猫被ってたのはバレてるだろうし、詳しい話は聞かれないものの、色々と私と同じだとうっすらバレているだろうし。なんだかますます申し訳ない。
「ロイ、お茶でも淹れてくれないか?お前のじゃないと我らが妹は満足しないからな」
「はい」
いや、そんなことはないんだけど。サーシャ直伝のロイが淹れるお茶が好きってだけで。まぁ、飲めた方が嬉しいのであえて何も言わないけど。
ロイが淹れてくれたお茶を飲んで一息ついた。なんだかものすごく疲れたので、色々染み渡る気がする。
「さて」
「え……?」
「とはいえ、このままでは殿下が不憫な上に、可愛い妹はいつまでも混乱しそうだからな。仕方がない。ひとつ、昔話をしてやろう」
お茶を飲んで私と同じように一息ついたらしい兄は、そう言って再び口を開いた。




