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「お、おおおお兄さまっ、な、なんで……」

「……なんでもなにも、殿下と挨拶がてら話をしていたところに、お前たちが来たんだ。かと思っていれば、まさかまさか、我が妹が殿下への挨拶もそこそこに背中を向けて逃げていくじゃないか。これは追わないわけにはいかないだろう」

「……」


う、うわ。

まさか兄までいたとは思わなかった。


「……ど、どこから聞いていました……?」

「……」


やっぱり全部聞いてたやつだ。

私は思わず顔をしかめた。反対に兄はにっこりと笑う。でも、それはそこはかとなく胡散臭いもので。嫌な予感しかしない。


「リーア」

「は、はい……」

「お兄さまには初耳な話ばかり聞こえてきたような気がするんだがな?」

「……え、えー、と」

「いや、いいんだ。忙しさにかまけてお前をほったらかしにしてしまったお兄さまの責任だろうからな。今からじっくり話を聞いてやるから、生徒会室まで行こうじゃないか。なぁ?」


私はじりっと後退りかけたエミリちゃんの制服を咄嗟に掴んだ。ついてきてもらわないととても困るのである。


「はー……い」


私は色々諦めて、素直に返事をした。





生徒会室にはリディガー様がいた。兄を見つけるなり、眉を上げて詰め寄ってくる。

あああ。またご迷惑をかけてるみたい。


「会長!ちょっと外の空気を吸ってくると言ってどれだけ経ったと思ってるんですか!明日までの議題もあるんですよ!他の生徒なんか、待ちきれず帰っちゃったんですけど!」

「あー、それはすまんと思ってる。思ってるが、マルク、緊急事態だ。全部明日に回して、お前も帰ってくれ」

「はぁ?!」


ものすごい形相のリディガー様。

そうよね。流石にこの言い草はそうなるわよね。


「あの、リディガー様……」

「!エルディ嬢、いらっしゃったんですね!」

「はい。色々あって、ばったり遭遇しまして」

「……なるほど」


リディガー様はそれだけで納得したようで、兄と私を交互に見て、眼鏡をくい、と上げた。


「ようするに、ご兄妹で大切な話があるということですね?」

「おお。その通りだ、マルク。よく分かったな」

「……分からないわけないでしょう、全く。そうとなれば仕方がないので大人しく帰りますが。会長。明日は休憩時間も無いものと思っていてくださいね」

「へいへい」


うわ。結構鬼だわ。リディガー様。

今の状況は私が原因でもあるのでちょっとだけ申し訳なく思った。

そうしていると、くいくい、と制服の裾が引かれる感触がして、え、と思ったと同時に、エミリちゃんがぐ、と私に顔を寄せる。ちょ、怖い。


「ちょ、ちょっと!」

「どうしたの?エミリちゃん」

「ま、マルク・リディガーって、まさか、あの、可愛いキャラのマルクちゃん?!は?!嘘でしょ、なにあれ!インテリ眼鏡じゃない!キャラ全然違うじゃない!」

「えええエミリちゃん落ち着いて!」


ちなみにエミリちゃんに関してはものすごく声を殺した上での心からの叫びだった。兄たちには聞こえても所々だろう。取り乱してるわりには冷静だな、とちょっと思ってしまった。


「はぁ。皇太子といい俺様キャラといい可愛いキャラといい……シナリオはともかく、キャラ設定がこんなにめちゃくちゃだなんてね。まぁ、もういいんだけど」


そこで私は、はっと思い出した。

そういえば、リディガー様は小さい頃家庭教師相手に好き勝手した私がいたから、今の自分があるんだとかなんとか言っていた。


(リディガー様がインテリ眼鏡なのって、私のせい……?!)


それに、よく考えたらロイだって、私と出会ってなかったら、兄に養子にならないかともちかけられることもなく、誘われるまま公爵家に行っていた俺様キャラだったかもしれないのだ。


(あらら?)


そして。私が皇太子に出会いさえしなければ、皇太子が意識を向けたのは、シナリオ通り、主人公であるエミリちゃんだったに違いないのに。


(私、シナリオの邪魔してたの?!)


以前、私にも前世の記憶があるんだということがバレたとき、エミリちゃんに自分が主人公に成り代わろうって魂胆だったんでしょ!と詰られたことがあった。

でも、よくよく考えてみれば、そうとられても仕方がないことを、私はやってしまっていたらしい。


「え、エミリちゃん!」

「は?」

「ごめん!私のせいだわ!」

「あんた、なに言って……」

「リディガー様がインテリ眼鏡になっちゃったの、私が原因って言われてたんだった」

「ちょ、」

「ロイだって私がいなければ公爵家の跡取りだったかもしれないし、なにより、皇太子が私に対してあんな態度をとることなかったはずだわ。だって、私はモブなんだから!でしょう?」

「……」

「まさか、私がシナリオの邪魔してたなんて……成り代わろうって魂胆だって言われても仕方なかった。ごめんなさい!」

「……なんで謝るんだ?」

「だって!皇太子は本当ならエミリちゃんを好きになる運命だったのに。そりゃ、ゲームの中とはいえ、皇太子にも選ぶ権利はあるだろうから、一概にそうとは言えな、い……けど……」

「……」

「……」


あれ?私今誰と話してた?エミリちゃんにしては、声が低かった、けども……。


「……」

「……」


恐る恐る顔を向けた視線の奥には、まるで「あちゃあ」とでも言いたげなエミリちゃんがいた。

そして、視線のすぐ先には、ちょっとなんとも言えない顔をした我が兄。十中八九、先の台詞はこの兄からもたらされたものだろう。

そして私は、結構な声でべらべら喋ってしまった自覚があった。


「……リーア」


兄のことを、すっかり忘れていたからである。






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