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待ちに待っていたはずの新学期が始まった。
予想外の出来事のせいで若干、行きたくないかも……?なんて思いつつも、そんな訳にもいかないので、私とロイは普通に復学した。
私とエミリちゃんを拐った真犯人とやらの捜査は引き続き水面下で行われるらしいという話だったけど、学園は事件などなかったかのように、ただただ平常である。
(まぁ、折角の新学期なんだから、平常になってくれないとね!)
そして現在私は、怪我で夏の休暇の前に休みをとっていたために、当然のように課題やらに必死で追われていた。
色々と考える暇がないのは今の私にとってはよかったといえるけど、学園生活も楽しみしていただけに、のっけからテンションだだ下がりだ。
「うう。こんなに勉強が嫌いかも、と思ったことって今までなかったわ……」
まだ数えるほどしか来れてなかった図書室で、私は分かりやすく頭を抱えていた。隣でロイが呆れたように頬杖をつく。
「大袈裟では?」
そういうロイだって、私に付き合って休んでいたので、同じくらいの量に取り組んでいたはずなのに。いつの間にか終わっていたけど。
私の顔色で言いたいことが伝わったのか、ロイは肩をすくめる。
「まぁ、俺はお嬢様のついでの休学だったんで、屋敷でも課題やってましたからね。その分理解は早いのかと」
「えっ、そうなの?」
「……アヴェルさまが「ついでなのに成績下げれないよな?」と、山ほど渡してきたもんで」
「あー……」
うわ。そうなんだ。
ロイ、私のリハビリに結構付き合ってくれてたはずなのに、山ほど課題やってたんだ……お兄さまもなかなか鬼だわ。
「リーリアさん、ほら、もう少しですよ!頑張りましょう?」
「え、エミリちゃん……」
主人公補正──本人談──で成績上位だというエミリちゃんは、私が課題に悪戦苦闘しているのを見かねてか、教師役をかって出てくれた。
ロイがいるからか、新学期が始まったからなのか、エミリちゃんはほどよく猫を被っていて、色々と優しい。エミリちゃんがいなかったら、もっと早々にめげていたに違いなかっただろう。
やっと課題に目処がついて机に伏せながら、しみじみ思った。
「……エミリちゃん、ありがとう。今度このお礼は必ず」
「まぁ。では、夜にお部屋に遊びに行ってもいいですか?色々、お話させてください!」
「えっ……あ、もちろん!」
色々、に含みがあったような気がするのは、気のせいではないだろう。
猫被ってないエミリちゃんとは全然話せてない。そりゃ、色々話したいことが溜まっているはずた。皇太子関係の話も含めて。
「……」
新学期に入ってから考える暇もなかったというのは本当だが、構えていた割りには、その辺に絡まれたりもなく、私の学園生活は平和そのもので、拍子抜けだった。
まぁよく考えたら、皇太子の爆弾発言に関わるあれこれが表に出たわけでもないので、早々に隣国の王女やら公爵令嬢が勇み挑んできたりなんてことがあるわけなかったのである。
(皇太子ともあれ以来会ってないし……)
まぁ、おかげで心積もりはばっちりだけど。
爆弾発言関連に対してはどきまぎするかもしれないが、相対するくらいは、普通に出来るだろう。
そう、思っていたのに……。
やっと解放された気分で図書室を後に出来た。未だ猫被り中の優しいエミリちゃんがお茶に誘ってくれたので、空いてそうなサロンを探す。もちろん、ロイが先導、その後がエミリちゃんで。文句のつけようもなかった。さっさとお茶したいし。
そうやって、なにも考えてなかったからかもしれない。
前に居たエミリちゃんが止まったので、私も合わせて止まった。
そして視界に入る、きらきら光る、青銀の髪。今日もやっぱり美しい顔が、柔らかく緩む。
「やぁ、リーリア」
「…………まぁ、殿下!こんにちは!今日もいい天気ですわね!それではまた!」
うあああ!
気付けば。
ひきつった笑みをひっさげて、私は早足でその場を後にしていた。ものすごく痛む脚を引きずったまま。
「……」
「……」
「……で、でんか……っ、」
「……笑いたいなら素直に笑ったらどうです?先生」
「い、いえ、そんな……っ、わらいたいなんて……っ、」
「……」
「そ、そんなに、気落ちされることございませんわ、殿下……っ、リーリアはちょうど、忙しかったのかも、しれませんもの……っ、こんな曇り空を、いい天気だなんて言うくらい……ぶふっ!」
「……貴方の態度が一番傷つくんですが」




