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「……エミリちゃん……」


私はがっくりと、机に額をつけて項垂れた。だめだ。問題が解決するどころか、これではただただ私がダメージを受けるばかりである。


(というか、私が皇太子攻略するほうなの?いや、乙女ゲームってそういうものだけど……いやいや、そういうことじゃないでしょ、私!)


「……ねぇ」

「んん?」


顔を上げると、エミリちゃんは先程の面白そうなものを発見した!みたいな顔を引っ込めて、眉をひそめた。


「思ったんだけど、なんでそんな感じなわけ?普通、皇太子にそういう意味で想われてたら、嬉しいものじゃないの?」

「……」

「貴族令嬢としては名誉なことなわけでしょ?皇太子よ?それでなくても、あんななんでもそろってる高スペックな男、なかなかいないじゃない」


それはそうだろう。流石恋愛ゲームの攻略対象とでもいおうか、そのスペックは素晴らしいものだ。

皇太子だからこの国で三番目に偉いわけだし、顔はものすごく整っているうえ、優しいし。その上、可愛らしい妹君はいるし。

だからこそ、隣国の王女も公爵令嬢も我先にとアピールするのである。

それは、よく分かっているのだ。


「……言ったかもしれないけど、私、そういうの興味ないのよね。生まれ変わったときも、ただ、友だちが欲しいと思っただけだし……」

「あんた……前世で小学生とかだったっけ?」

「……今世足したらアラフォーですけど……」

「うわぁ」


言いたいことは分かる。精神年齢アラフォーの、いい歳したおばさんなのに、なに、子どもみたいなこと言ってるんだ、ってことよね。分かってる。


「前世で恋愛経験とかなかったの?」

「うーん……そりゃ恋人はいたこともあったけど、そんな恋愛経験ってほどのことはなにもなかったかな……最期らへんの記憶、ほとんど婚活に苦しんだことだし」

「……」

「ちょ、引かないでよ、若者!」

「今は同じ歳でしょ……」


折角の、友だちとの恋ばな?というきゃっきゃな場面だというのに、甘酸っぱさの欠片もないのはどうしたことなのか。原因私だけど。


「ん……?じゃあそれこそ、いい機会なんじゃない?」

「え?」

「いい恋愛経験になるでしょ。この際、あんただって楽しんじゃえばいいのよ」

「……えー……」

「えー、じゃない。あんたね、ここは乙女ゲームの世界なのよ?恋愛ゲームなのよ?こうなったからには、恋愛を避けて通れないに決まってるでしょ!皇太子がもう隠す気ないんだから!」

「……でも、はっきり言われたわけじゃないのよ?」


そもそも、向き合ってほしいと言われただけなわけだし。いや、そういう意味で、とかも言われてるわけだけども。


「……はっきり言われたら、即婚約どうこうの話になるんじゃない?この状況なら。その辺はあんたのほうがよく分かってるでしょ?」

「……」


おっしゃる通り過ぎてぐうの音も出なかった。その通りだ。相手は皇太子。それでなくても、貴族というものは付き合うとかいう概念はなく、イコール婚約、そのまま結婚、ということが多い。そもそも結婚年齢が前世と比べて圧倒的に低いのだ。


「うう……私は皇女様と仲良しなだけだったのに……というか、そもそも皇太子だって、私の友だち第一号だったんだけど……」

「……それ、いつの頃の話?」

「え……っと、八歳くらい?」

「うわ」

「いや、何歳のときの話でも、友だちは友だちでしょ!」

「……それが違ったから、今こんなに喚いてんじゃないの?」

「ううっ、」


皇太子は、私を妹のように思ったことは一度もないと言った。ということは、友だち一号になったころから、少なからず想ってくれていたのかもしれない。私が気付かなかっただけ……いや、気付きたくなかった、だけで。


「……とにかく、ここで考えるだけ無駄無駄。皇太子は多分、これからは特に隠さないだろうし、その流れであんたは王女やら公爵令嬢やらに敵認定されて、最悪いびられる」

「うそぉ……」

「乙女ゲームの正当な流れよ」

「え、エミリちゃんが主人公でしょ……!」

「いや、こうなったらもうあんたが主人公でしょ」

「えぇ……なんでこんなことに……」 


私はまた、机に額をつけた。恋愛の修羅場に巻き込まれるなんて、一番恐れていた事態だというのに。しかも相手はあの隣国の王女と公爵令嬢。ああ、本当に、なんて恐ろしい。


「……まぁ色々言ったけどね、リーリア」

「……?」

「前途多難なのはそうだけど、大事なのは、皇太子のことをちゃんと考えることでしょ?向き合って、って面と向かって言われたんだから、しっかり向き合わないと」


最初、若干痛い感じの子だったのに。

私は思わず、しみじみと口を開いた。


「……エミリちゃん、実は私より大分年上とかだったりしない?」


ものすごく怒られた。






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