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皇太子、うつうつ





沈黙が降り立った。

セルシアはことさらゆっくりカップを置く。こちらは全く見ないのに、何か言いたげな空気を隠しもしていなかった。なので。


「……なに?」


ジルディオはようやく口を開く。出来れば今は話をしたくなかったが、こんなにも何か言いたげなのを無視は出来なかった。

途端に、セルシアはむっと眉をひそめる。


「いいえぇ!あんなにずばっといえるなら、もっと早くものにしてれば、こんな事態になっていなかったのに!なんて、思ってもいませんわ!」

「……」


それはもう、思ってるも同然じゃないか?というか、ばっちり言ってるし。

ジルディオは大きな溜め息をついて、紅茶をすすった。

そんなに簡単にいくなら、もちろんとっくにそうしてたに決まってる。そうでなかったから、こうなっているのだ。


「……陛下にも同じようなことを言われたよ」





『こちらはもちろん、やんわり断ったとも。でもなぁ、考えてもみろ。国の皇太子にこの歳まで婚約者がいないんだぞ?それなのに、そちらに娘をやるから、気に入っていただけるといいですが……と言われて突っぱねるわけにもいかんだろう。それもこれも、お前が手をこまねいて、さっさとあの娘をものにしないせいだぞ。まぁ精々、いい機会だとでも思うんだな。たとえ玉砕しようが、選びたい放題じゃないか』


誰のことなのか、ばっちりバレているらしいのはこの際置いておいて、そんなことよくも言えるな、とジルディオは思った。皇太子、ひいては国王に伴侶はたった一人。誰でもいいわけではない。


『……僕は、陛下とは違います』

『……ふん。私がお前の母を適当に選んだとでも?』

『……』

『たわけたことを』

『……分かってます。父上と母上は愛ではなく、信頼で結ばれていたのでしょう。母上も散々言ってましたから。過ぎたことを申しました、お許し下さい』


きっぱり頭を下げる。こんなのは八つ当たりだった。


『それだけ切羽詰まっている姿を見るのも面白いがな。ジルディオ、セルシアも歯がゆく思っているようだ。妹の機嫌は損ねるものではないぞ』





(確かに。そのようですね、父上)


一度言ってしまったからか、セルシアの言葉にはもう容赦がない。


「お父さまもそりゃ、言いたくなるというものですわ。さっきも。リーリアお姉さまをさっさと帰してしまうなんてどういうことなんです?鈍感お姉さまにもやっと、お兄さまの気持ちを理解していただけたというのに。あそこはもっと、畳み掛けるように想いを伝えるところではありませんの?」

「無茶なことを。それに、僕は本当は、まだああいうことを言うつもりはなかったんだ」

「はあ?!なにをおっしゃってるんです?!」


セルシアはくわっ、と牙をむく。リーリアが見たら固まるんじゃなかろうか。まぁ、リーリアには決して見せない顔と分かっているけど。


「……本当は、リーリアがもう少しちゃんと僕の気持ちを理解して、せめて、伝えたときにもし驚いたとしても、混乱したまま「……そろそろお暇しなくては」なんて言ってさっさと帰ってしまうことがないように、今より少しでも距離を近づけてからにしたかったんだ」

「……」

「でも、隣国の王女は来るわ、公爵令嬢もぐいぐいくるわ、妹は妹で、僕の代わりと言わんばかりにリーリアに僕のことでぐいぐいいくわで、そんなこと言ってられなくなったんだよね」

「……う」


流石に出過ぎた真似をしたとは思ったのかもしれない。セルシアはきゅ、と唇を結んだ。

でもまぁ、セルシアのあれがなかったらリーリアが自分を今、どう思っているかなんて聞けなかっただろうが。


「まぁ。まさか、僕を兄としてしか見ていないとは思わなかったし、結果、これでよかったのかもしれないけど」


こんなつもりではなかった、とは今でも思っている。

でも、そんなこと言ってられなくなったのも事実だ。むしろ、隣国の王女や公爵令嬢とまさかと思うがゴタゴタして、そんな中の勢いやらで告白!なんてことにならずに済んでよかったともいえるかもしれない。


(まぁこれで、口説いても、ちゃんとそういう意味で伝わるわけだよね)


そう思ったところで、遠くから声が聞こえたような気がした。


──まぁ、あまり急激にぐいぐいいって、嫌われないようにはしないといけないでしょうけど。


声の主はリーリアの実の兄だ。そういえば、そんなことを言われたんだった。

意気込んだところを、水を頭から被せられた気分である。


(……はぁ、)


簡単にいくとは、はなから思ってはいなかったが、相当てこずりそうな予感がする。

今までのこともあるし、この予感はきっと当たるだろう。  


ジルディオは、再び大きな溜め息をついたのだった。





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