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セルシア様は珍しくすっとんきょうな声を上げた。そんなに驚くようなことを言っただろうか。確かに、一介の伯爵令嬢が気にするなんて恐れ多いっていうのは分かってるけども。
「……そんなにおかしなことを言ってしまいましたか?私」
「そ、そうじゃなくて……急だったからちょっとびっくりしただけ」
「すみません、なんだか気になってしまって」
「気になるの?!」
今度は興奮気味に声を上げるセルシア様。胸の前で手を組んで、心なしか高揚しているようだ。
「え、ええと……皇太子殿下と結ばれたら、その方は皇太子妃で、つまり、セルシア様の義理のお姉さまということですよね」
「まぁ……そうなるわね」
「セルシア様は、その、義理のお姉さまになる方は、どんな方がいいですか?」
「……え?」
「あの、これからも皇宮へお招きいただくことがあるときに、今日のように私がその方とばったり会うこともあるかもしれないですよね?だからそのために私、皇太子殿下と結ばれる方とは仲良く出来たらなぁと思ったんです。それで、セルシア様は、どんな方がいいと思ってらっしゃるのかな、と。気になって……」
私は恐れ多いのを覚悟して丁寧に質問した。皇太子の好きな人を聞き出そうとしてるわけじゃないし、セーフじゃないかな、と思ったのだ。
でも、セルシア様は、あからさまに肩を落とす。
「せ、セルシア様……?」
「そうよね、そんなことだろうと思った」
「え?」
思ってもなかった反応に内心慌てていると、セルシア様は急に立ち上がって私に詰め寄ってきた。テーブル越しなのでちょっと顔が近付いただけだったけど。
美しい顔のアップはなかなかの迫力だ。
「リーリアお姉さま!」
「は、はい!」
「……お姉さまがいいわ」
「ん?」
「義理のお姉さまになるのは、リーリアお姉さまがいい」
「へ」
今度は私からすっとんきょうな声が出た。今、皇太子妃とかの話の流れで、義理のお姉さまが誰がいいか、セルシア様に聞いたはず、よね?あれ?
「ええと、セルシア様のお姉さまになれるとしたら、恐れ多くも光栄なことなんですけども……ええと、私の兄と結婚してくださる、とか、そういうお話で……?」
「それじゃあ逆に、私がリーリアお姉さまの義理のお姉さまになるじゃない」
ですよねー。
言われた通り、私の兄の結婚相手は、私にとって義理の姉になる。私に弟がいない限り、セルシア様が義理の妹になることはない。
……いや、ある。
最初から、その話をしていたのだから。
皇太子と結婚した相手が、セルシア様の義理の姉になるということ。
つまりその、義理の姉になってほしいと。私に……?
「い、いえいえいえいえ。そんな、あり得ないことですわ……!」
「どうして?」
「どうして、って……」
だって相手は皇太子だ。隣国の王女やら、高位貴族の公爵令嬢とかがこぞって狙っているような、私にとっては雲の上も同然の人。
「……セルシア様。私はヴァルティス様やスティアラ王女さまとは違います」
「なにが?」
「なにが、って……色々ありますが、身分がそもそも違います。皇太子殿下のお相手には相応しい身分がおありでしょう」
「あら。リーリアお姉さま、聞いてなかったの?大事なのは身分じゃなくて、お兄さまと一生を添い遂げられるかどうかなんだから」
いや、それは聞いてたけど。
それならなおさら身分は大切なんじゃないだろうか。皇太子の責は重い。それこそ学生にも関わらず仕事してるらしいんだから。
一生を添い遂げるという皇太子妃の責も、並大抵のものではないだろう。普通の令嬢に勤まるとも思えない。
「もちろん、聞いてました。でしたら尚更、私に勤まるとも思えません。もちろん、セルシア様の義理のお姉さまになるというのは捨てがたいですけどね。そんな風に言ってくださってちょっと嬉しかったです。ありがとうございます」
いくらお姉さまと呼ばれてても、所詮は他人に過ぎない。義理とはいえ、姉にと望んでくれたのは素直に嬉しい。でも、そこに皇太子との結婚やらが関わってくるのは、違う話だ。私がもっとも回避したい話。
「……ねぇ。リーリアお姉さま」
「はい?」
「……リーリアお姉さまは、お兄さまのこと、なんとも思ってないの?」
「セルシア様。このお話は終わりにしましょう。思えば、皇太子殿下の好きな方にとっても、あまりいい話とは言えませんわ」
「……」
「それに、こんな風に話題にしてしまうのは、皇太子殿下にご迷惑でしょうし」
「迷惑じゃないよ」
「……」
ひく、と顔が思わずひきつった。絶叫を慌ててこらえる。
で、でたーーー!!
このくだり一体何度目なの?




