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巻き込まれ回避で余分に歩いて、私はようやく皇女宮の、いつもの室内庭園へたどり着いた。
時間が思ったよりかかったせいか、セルシア様はすでに席に座っていて、私は慌ててテーブルへ駆け寄る。
「すみません!遅くなってしまって……」
「お姉さま、無理しないで。脚の怪我のせいでまだ本調子ってわけじゃないだろうし。ゆっくりで大丈夫よ」
「……ありがとうございます」
私は、セルシア様から促されるまま席についた。メイドがすぐさまお茶を用意してくれる。やっぱり、流石皇宮のメイドだわ。仕事が早い。
「でも、なにかおかしなことがあってここに来るまで時間がかかってるのかと思ってちょっと心配したわ。大丈夫そうだけど……」
「……」
「どうしたの?」
「……ええと、おかしなことなら、あったような、なかったような……」
「え?」
「まぁ……そうだったの」
私は隣国の王女にばったり会ったこと、途中でヴァルティス様が合流したこと、二人が笑顔で火花を散らしていたことをざっくり話した。流石に見下されたことは言えなかったけど。
「……スティアラ王女が皇宮にいるのは確かだけど、お兄さまの元へ行っているのは知らなかったわ。ヴァルティス嬢も」
「そうなんですね……」
というか、するっと流したけど、皇太子って学生のうちから、もう執務室で仕事する感じなのね。しかも夏の休暇中なのに。やっぱりそれだけ重責のある立場なんだと、改めて実感。
そして、そんな忙しい中で、女の子同士のそういうバチバチの渦中にいるなんて、気の毒すぎる。
「大変ですわね、皇太子殿下……」
「……そうね。でも、早いとこ婚約者を決めないままここまできてるせいでもあるから、自業自得だって、お父さまはおっしゃってたわ」
「……う、わぁ、そうなんですね……」
思わず顔がひきつった。そんなばっさり自業自得って……。でも、エミリちゃんも言ってたな。皇太子の歳まで婚約者がいないのは、他の国でも珍しいって。
「というか、婚約者は殿下本人がお決めになるものなんですね」
皇太子の婚約者って家柄とかの関係をもとに、国王が決めるものだと思ってた。まさに政略結婚。
でも、自業自得ってことは、決定権は皇太子自身にあるってことだ。
「……そうよ。この国では皇族も一人しか妻を持てないじゃない?」
まぁ、初耳ですけど。
確かに国王が皇妃と結婚したのは、皇太子の母である正妃が亡くなられてからだったような気がする。その辺りの複雑な事情は分からないけども。
「正妃になる方は、王にとって一生を添い遂げられる方じゃないといけない。だから、その決定権はお兄さま本人に委ねられるの。自分で決めた伴侶を蔑ろにはしないでしょう?」
確かに、いかに恋愛ゲームとはいえ、普通ならほとんど平民に近い男爵令嬢と、皇太子が結ばれるなんてありえない。国の決まりとしてそういう風になってるから、ゲームでは皇太子ルートが成立するわけだ。
「……はあ。スティアラの王女さまやヴァルティス様がああして火花を散らすわけですね……」
隣国の王女の留学を皮切りに、皇太子へのアピール合戦が始まるということか。改めて、逃げ切れてよかった。
「あ、でも殿下には好きな方がいらっしゃるのでは?」
「えっ。お姉さま知ってたの?」
「知ってたというか……ええと、私の同級生がそんな風なことを言ってまして……セルシア様はご存知なんですね」
「……まぁね。お兄さま分かりやすいもの」
「ええ?」
だって皇太子って裏表キャラでしょ?それなのにそんなことある?それとも家族だからなのかしら。でも、だったらエミリちゃんも知ってるっぽいのはなんでだろう。
「そんな風に思ったことなかったですわ」
「……お姉さま、鈍感だもの」
「え?」
「ううん、なんでもないの。あ、お兄さまといえば、リーリアお姉さまにって、差し入れをいただいたの」
「差し入れ……?」
セルシア様がメイドへ合図した。さっと下がったメイドはすぐに戻ってくる。そして、彼女が持ってきたものを見つけたとき、私は思わず感嘆の声をもらしてしまった。
「こ、これは……」
なんて綺麗で美味しそうなケーキなのかしら。
メイドが持ってきたのはそれこそ宝石をあしらったかのように綺麗な、それでいてものすごく美味しそうなケーキの数々だった。
怪我のせいで今まで強制的に健康的な食事を摂らされていて、まぁそれ自体は美味しくなかったわけじゃないけど、なんと、お菓子を禁止されていたのだ。久しぶりのケーキに、喜びもひとしおである。
「ふふ。お兄さまがお見舞いに行けなかった代わりにって。最近出来たパティスリーのケーキなんですって」
「まぁ……そんな貴重なものを……」
「お兄さまのお知り合いで、快く作ってくださったらしいから。リーリアお姉さまは心置きなく食べてって言ってたわよ」
私が気兼ねなくケーキを食べれる配慮までしてくれるなんて。流石皇太子。やっぱりあなどれないわ。あなどったことないけど。
ケーキは純粋に嬉しいのでありがたくいただく。テーブルいっぱいのケーキなんて。夢のようだ。
「……美味しいです……」
「そう!よかったわ」
「殿下はやっぱりお優しいですわね。お見舞いに来れなかったことなんて、気にしなくてよかったのに……ありがたいですわ」
「今度、本人に直接言ってあげてちょうだい」
「本、人に……」
「……リーリアお姉さま?どうかした?」
「……セルシア様」
「なぁに?」
「……先程の話ですけど、セルシア様は、どんな方と殿下が結ばれてほしいですか……?」
「……え、ええっ?!」




