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さて。私は見事、歩けるようになった。まぁちょっと疲れやすいけど。あと、ものすごくゆっくりの歩みだけど。
でも歩けるのには違いないので、数日の交渉の末、私は兄からやっと外出許可をもぎとった。
そうして、セルシア様へお伺いを立てたところ、早速、お茶会へのお誘いをいただいのである。
いただいたは、いいんだけども。
「……」
「……」
「……」
まさか、こんなことになろうとは。
何度目かの皇宮。私は、意気揚々と皇女宮へ移動しているところだった。
流石にこの歳になると一人でも心細さはない。セルシア様にやっと会えるわけだし。
(……え……?)
目の前に、見知らぬなんというかゴージャスな女の子──とはいえ、13歳の私よりも歳上とは思うけど──が歩いて来さえしなければ。
「……だぁれ?」
金髪に薄い紫色の瞳。皇太子に負けずとも劣らない美しいお顔から出てくるには意外な、可愛らしい声が聞こえたのが最初だった。
え、誰?はこっちの台詞でもあるんですが。
困惑していると、その女の子の背後にいた二人の、多分侍女がきっ、と睨んでくる。
「貴方!この方をどなたと心得ます!」
だから、どなたなのよ?
「このお方は、スティアラ国第二王女、マリアテル・イーリン・スティアラ様でございますよ!」
げっ。エミリちゃんが言ってた隣国の王女じゃない?
私は慌てて礼を取った。
「失礼いたしました。エルディ伯爵家息女リーリア・エルディ、恐れながらご挨拶申し上げます」
「ふぅん。この国では、伯爵家の令嬢が、皇宮をうろうろ出来るのねぇ」
うろうろって……。私は皇女宮に行く途中なだけなのに。しかも伯爵家関係ないような?
というか、こんなところにいるんだから、むしろ、うろうろしてるのは、王女のほうなのではないのか。
私が内心そんなことを思っている間にも、王女は何故か私の頭のてっぺんから爪先──は見えないだろうから多分ドレスのすそ辺り──をじっくり見る。そして、にこっと笑みを見せた。
ああ、なんて美しいお顔かしら。美人の笑顔の破壊力よ。
「……お粗末だこと」
(……う、わぁ、)
そんな浮かれたことを考えている場合じゃなかった。
可愛らしい声でなんてことを言ってくれるのか。折角の美しい笑顔と可愛らしい声が台無しである。
(……仲良くなれなさそう……)
どうしてだか知らないが、出会い頭にこんな風に見下されるなんて思ってもみなかった。
皇太子妃になるかもしれない人とは、セルシア様の友だちとして、仲良くしたかったのだけども。
(……相手がこれじゃ、仕方ないわ)
「……お目よごし、失礼いたしました」
なにはともあれ、こちらも貴族だ。突然見下される筋合いはない。私は頭を下げた。この間にさっさと通り過ぎてくれればいいんだけど、と思いながら。
でも、私の今世って、なぜかそううまくはいかないのよね。
「まぁ、スティアラ王女様。また、お会いしましたね」
げげっ。
私はこっそり顔をひきつらせた。
声が聞こえた瞬間走るぴりっとした空気で、ろくなことが起こらないような予感がしたからだ。
「……ヴァルティス公爵令嬢……」
「父に聞きましたわ。先程はやはり、執務室を追い返されてしまったところでしたのね」
「……」
「仕方ありませんわ。殿下はお忙しいですもの。まぁ、私の差し入れを召し上がるお時間はあったようですけれど」
「……どうせ父親のついでに渡しただけでしょう。皇太子殿下も、配下の娘だからと、気を遣わなければいけなくて大変だこと」
「……」
ひいぃい。
両者笑顔のはずなのに、ものすごく怖い。それぞれの後ろに控えてる侍女やら取り巻きやらも、顔がひきつっているし。
私は無言で気配を消し、二人が笑顔で睨み合っているうちに、じりじり後退してその場から脱出した。挨拶もせずに多少失礼だとは思ったけど、矛先がこちらに移るのは困る。逃げるが勝ちだ。
(それにしても……王女の話は聞いて知ってたけど、ヴァルティス様まで出てくるなんて……)
考えてみたら、ゲームの中で主人公と争うのは公爵令嬢だった。王女とか出てくるわ、主人公が転生者だわで忘れてた。
(今も逃げ切れたわけだし、ああいう風に二人でやりあってくれる感じだったら、これから万一遭遇しても、私は大丈夫かもだけど……)
王女から見た私の印象は最悪だろう。ヴァルティス様はまだ大丈夫かもしれないけど。
どちらかが皇太子妃になるなら、私がセルシア様のところへ会いに来るたび鉢合わせする可能性は高くなるだろうから、出来れば優しくしてほしいんだけどなぁ。




