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エミリちゃんから、ディーもロイも攻略対象だということを聞いてから二週間。私はリハビリに燃えていた。

やっと立てるようになったので、壁伝いにゆっくり脚を動かしながら歩く日々だ。これがもう、ものすごく疲れる。


「……れ、令嬢の体力が乏しいってこと、忘れてたわ。折角領地で体力づくりして、多少は動けるようになってたのに……」


自分の部屋へ辿り着くまでにへばってしまう私は毎度泣く泣く、付いてきてくれるロイに部屋まで運んでもらっていた。申し訳ないことに、お姫様抱っこで。


「……ロイごめんね、毎回運ばせて」

「いや、俺、このためにあんたの歩く練習についてきてる訳だし」

「でも、重くない?」

「……俺をなめてねぇ?軽いくらいだっての」

「そうかな?」

「俺だって男だからな」

「……男だったら女の子をお姫様抱っこするくらい簡単にしないといけないぜ、って感じ?」

「……運びにくくなること言うのやめろ」

「えへ」

「……まぁ、それはともかく。こんなバテバテになるくらい必死にやることじゃないだろ?また立てなくなったら元も子もないんだから、歩く練習は、もっとゆっくりすれば?」

「それじゃだめなの!」


私の大きな声は、ロイの耳元で響いたらしい。ごめん、ロイ。

でも、私には早く歩き回れるようにならないといけない理由があるのだ。





ことの発端は一週間前、またもエミリちゃんからの話によるものだった。


「え?隣国の王女さまが?」


私の部屋に入ってきたときからエミリちゃんは深刻な顔をしていたから、理由を聞いてみたら「隣国の王女さまが、留学生として我がレヴィローズ学園にやって来る」とのことで。


「へー……」

「へー、って、もっと言うことないの?」

「え。だって、留学くらいするでしょ。王女さまがわざわざっていうのはちょっとびっくりだけど」


王女さまって王宮とかからあんまり出てこないイメージだったから、他国へ留学っていうのは驚きだった。でも、セルシア様も学園に通うくらいだから、隣国の王女も、なんで自国じゃないのかな、とは思うが、まぁ、そういうこともあるのかもしれないと思っただけだ。


「……あのねぇ、王女が、ただ学園に通うためだけに隣国に来るわけないでしょ?」

「どういうこと?」

「絶対、皇太子に取り入るためよ!」

「へ?」

「うちの国の皇太子は15歳だけど、婚約者がいないじゃない?これって他の国から見ても珍しいことよ。だから、その王女の目的は、皇太子に取り入って、あわよくばこの国の皇太子妃になること!そうに決まってるわ!」

「はぁ、そうなの?」

「そうなの?じゃないでしょ!私の話ちゃんと聞いてるの?!」

「ちょ、エミリちゃん、声が大きい。ちゃんと聞いてるってば」


いくら今は二人きりとはいえ、あまりにも声が大きいと、サーシャとかロイとかが何事かと部屋に入って来かねない。

私の制止でちょっとは冷静になったらしく、エミリの声は少し押さえられた。


「……あのね、あんたはなんとも思わないの?」

「え?私……?あ、そっか」

「!なによ!」

「その王女さまとも、仲良くしてたほうがいいわよね?」

「……なんですって?」

「え、だって、もしその王女さまが殿下に気に入られれば皇太子妃よね?ということは、セルシア様の義理のお姉さんになるわけで……セルシア様と長い友だち付き合いをしていくためには、その方とも仲良くしてたほうがいいってもんじゃない?」

「……」


あれ、エミリちゃんが変な顔してる。主人公的にその顔アウトじゃない?言えないけど。


「……ねぇ、あんた、皇太子と仲いいわよね?」

「だから言ってるでしょ?私が仲がいいのは、セルシア様なの」

「……皇太子とは?仲が悪いってわけ?」

「いや、悪い、ってことはないけど……だからって、仲がいいってわけでもないような……。いや、よくはしてくれてるのよ?殿下からしたら、妹の友だちなわけだし」

「……」


だから、エミリちゃん、顔!

どうしたというのか。

まぁ、そりゃ、皇太子を攻略する主人公にとって、隣国の王女っていうキャラが恋敵として登場、となると心穏やかではいられないだろうけど。


「ねぇ、エミリちゃん」

「なに」

「皇太子を隣国の王女と取り合うのはいいけど、私を巻き込むのはやめてね」


ただでさえ厄介なことに巻き込まれやすいのだ。恋愛に絡んだことだけには巻き込まれたくない。


「……言っとくけど。私、別に皇太子攻略しないわよ」

「えっ、そうなの?」

「……だって、皇太子の好きな人って……」


エミリちゃんは、そこで言葉を止めた。


(えっ、皇太子って好きな人いたんだ?!)


私は内心驚きつつも、大人しくエミリちゃんの言葉の続きを待った。だって、皇太子の好きな人ってワード強すぎない?


「……やっぱり言わない。なんか癪だし」

「えー……」

「気にはなるわけ?」

「そりゃ、次期皇太子妃、ひいては正妃になる人でしょ?気になるじゃない」

「……近いうちに嫌でも知る羽目になるわよ。多分ね」

「どういうこと?」

「さぁね!」


なんか、面倒くさそうに話を終わりにされてしまった。エミリちゃんが話始めたくせに。


「……それはそうと、学園もうすぐ始まるけど、あんた、ちゃんと復学出来るの?」

「出来るように頑張るけど……学園始まるのっていつぐらいだっけ?」

「あと一ヶ月後よ」

「……一ヶ月後?」

「お兄さんから聞いてないの?」

「……」


兄め。私が慌てると分かって、わざと教えなかったな。


「……まぁ、無理するものじゃないと思うけど。そんなの自分の身体のこと分かってない、お馬鹿さんのすることだしね!でも、帰ってこれるならとろとろしてないで、さっさと帰って来なさいよね。そしたら、友だちなんていないあんたに、私が声をかけてあげてもいいわ!」


出た。エミリちゃんのツンデレ。





まぁ、そんなこんなでツンデレ美少女に和みつつ、私は一気に焦った。だってあと一ヶ月で学園が始まってしまったら、セルシア様のところに行けなくなってしまうから。

ずっと、夏の休暇に入ったら絶対セルシア様のところへ行きたいな、と思っていたのだ。脚を怪我して、歩くことが難しくなったが、それでも早く治して、一度だけでも、と。

でも、学園が始まってしまったら、今度は秋だ。隣国の王女の話も聞いてしまったし、どうせなら、夏の休暇中にセルシア様に会いに行きたい。



こうして私は、夏の休暇中にセルシア様に会うため、急いで歩く練習にとりかかったのだった。






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