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私の兄兼友だち兼護衛のロイは、まさかの俺様攻略対象キャラでした。
「う、嘘!?だってうちのロイは、俺様じゃないわよ?!お兄さまにちょいちょいいじられるし、こき使われてるし……」
「公爵家の跡継ぎとして連れ出されて、変に優秀だったから俺様キャラになってしまったって言ったでしょ!公爵家の跡継ぎとして学園にいるわけじゃないんだから、俺様になる要素なんてないじゃない」
「えー……」
じゃあなに?エルディ家の養子になってしまったばっかりに、ロイは俺様じゃなくなったってこと?
「なんか、ごめんね」
「なにが?正直ちょっと苦手な俺様キャラだったから、私としてはよかったけど」
「へ、へぇ……」
苦手な俺様キャラとは……?
「……ねぇ、ロイ」
「はい?」
「ロイはなんで、孤児院にいたの?」
「なんだよ、急に」
エミリちゃんが爆弾を落として帰っていったあと。ロイは私の部屋へ戻ってきた。どうやら、徹底的に側に張り付くつもりらしい。自業自得だし、ベッドから動けないので実際助かっているわけだけど。
サーシャが席を外して、ロイと二人きりの私の部屋。
迷いに迷ったけど、私は意を決してロイに話すことにした。だって、あんまり裕福じゃないらしい──そんな風に思ったことないけど──伯爵家の次男より、公爵家の跡継ぎのほうがロイにはいいと思うし。まぁ、話したからってどうなるとかは分からないけども。
「ええと、無理に聞き出そうってことじゃないのよ?言いたくないならもう聞かないし」
「別にいいけど……特別なことはないぞ。母親が結婚もしないまま俺を産んで、育てられないからって孤児院に置いてったんだ」
「……お父さんのことは?なにか知らないの?」
「……?」
ロイが怪訝そうな顔で見てる。私は慌てて口を開いた。
「えーっと、あのね。なんというか、どこで聞いたと言われると困るけど、その、一応確かな情報ではあるんだけどね?ロイのお父さんは、あの……」
「ああ。何かと思ったら。もしかして、俺の父親がヴァルティス公爵だ、って話か?」
「へ……っ?」
ヴァルティス公爵って、私をお茶会に招待してくれたあの、レティア・ヴァルティス様の家?ロイのお父さんってその、ヴァルティス公爵だったの?!
エミリちゃんとの話で、ロイが公爵家の跡継ぎだってことは分かったけど、まさかヴァルティス家とは思わなかった。だって、ヴァルティス家って高位貴族だし。エミリちゃんも言わなかったし。
まぁ確かに、ヴァルティス様とロイの瞳の色って、同じだったかも……。
いやいや、それはともかく。
「しっ、知ってたの?」
そう、それだ。だって、色々知らないからロイはエルディ家の養子になったと、そういうことではなかったのだろうか。
「まぁな。なんか、ヴァルティス家から来たっていう執事が来て、教えてくれたんだよ」
「えっ、いつ?」
「え?いつって、学園に入る前だったな。貴族のための勉強も大詰めの、時間ないときだったから、いらっ、とした覚えがある」
「いらっ、とって……えっと、そのときなにか、言われなかった?」
「……なにかって?」
「ほら、その……養子にならないか、とか……?」
「……」
(えっ、なんで呆れた顔?!)
「なんでそんなこと聞くんだよ?」
「え、と、」
ロイはぞんざいに私のベッドの端に座った。なんだか投げやりなんだけど。
「……誰になにを聞いたのか知らないけど」
「う、」
「つまり、俺に公爵家に行ってほしいとかって話か?」
「えっ!そんな訳ない!」
「じゃあなんだよ?」
「……だって……やっぱり伯爵家より公爵家のほうが色々いいじゃない。身分が高い分やれることも違うだろうし。色々豪華だと思うし。それに、本来なら本当のお父さまのところで暮らせたほうがいいはずなのよ。なのに、私のせいでエルディ家に入ることになって、そのせいで公爵家に行けなかったんだとしたら、なんか申し訳ないなあ、って」
「あのなぁ。俺は自分が来たくてここにいるって言ったよな?」
「……言ってたけど」
「誰が父親だろうが、俺が孤児院出身だって事実は変わらないだろうが。公爵家に行ったとして、どういう扱い受けるか分かったもんじゃないだろ。そんな偉いところに行ったら、特にな。けどその点、エルディ家ならそんな心配はしなくていい。俺が孤児院出身だって元々知ってる訳だしな」
「……」
「だから、別にそのせいで公爵家に行けなかったとか、そんな事は一切ない。説明してきた執事にいらっ、としただけだって、最初から言ってるだろ」
「……でも、ロイ。公爵家に行ったら、跡継ぎだよ?公爵家跡継ぎ」
「だからなんだよ?」
ロイは私の顔を覗き込んできて、指で額を弾いてきた。デコピン。地味に痛いんですけど。
「ちょ、ロイ、」
「……あんた、やっぱり俺を追い出したいんだろ?」
「違うってば!」
「公爵家跡継ぎがどんだけ偉いか知らないけどな、俺にとっては伯爵家次男でも大層なもんだよ」
「……そう?」
「お嬢様には分からないだろうけどな」
「……そういうこと言うのはよくないわ」
「あんたが変なことばっか言うから、お返しだよ」
「むぅ」
確かに、折角兄で友だちで護衛になってくれたのに、公爵家のほうがいいんじゃない?っていうのは無神経だったかも。
ロイの言う通り、エルディ家でもマナーとか規律は厳しいのに、高位の貴族、しかも跡継ぎだったらそれはそれで大変だったかもしれないし。
「この話はもう終わりでいいか?俺は俺の意志で、あんたの兄で友だちで護衛になったんだ。これからもそれは同じ。分かったか?」
「……うん」
エミリちゃんにロイが公爵家の跡継ぎで、攻略対象って聞いて変に混乱しちゃってたのかも。ロイがロイの意志でここにいるのに、私がとやかくいうなんておかしかった。
「ロイ」
「なんだよ?」
「……なんか、お腹空いた」
「お前……欲望のまますぎないか?」
「お腹空いた」
「……はいはい。お嬢様、仰せのままに」
話が終わったとたんにお腹が空いてきたので、素直にそう言ったのに、ロイはまた呆れた顔だ。それでもちゃんと私のお願いを聞いてくれるらしく「ちょっと待ってろ」と部屋を出て行った。
「……」
別に、ゲームでロイが公爵家の跡継ぎだったからって、無理に同じ展開になるよう戻そうとした訳じゃない。ロイがこのままエルディ家に居てくれたら心強いし。
でも、攻略対象としてはどうなんだろう。
エミリちゃんの言葉を思い出す。
──私としてはよかったけど。
確か、そんなことを言ってた気がする。
ということは、伯爵家の養子で次男だけど、ロイも攻略対象として攻略されるんだろうか。なんだか変な感じだ。
(まぁ……ロイがこのままの設定でも攻略対象になろうがならまいが、私には関係ないか)
私は、ロイがなにを持ってきてくれるか想像しつつ、ベッドに寝転がった。




