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と、まあ、勢いで走ってきたものの。


(あ!!)


なんと、大事な地図を皇太子へ投げた制服の上着に入れていたということを、たった今思い出してしまった。これは由々しき問題だ。

手元に地図がない状況で、どうやって目的地にたどり着けるというのか。なにせ、方向音痴を自覚しているので。


(な、投げるんじゃなかった!)


まぁ、上着を投げつけて出来たあの一瞬の隙がなければ、煙玉があっても皇太子から逃げ切れたか怪しいから、ああするより他なかったとはいえ、だ。


(旧図書館へ行けなかったら、皇太子への無礼も無意味になっちゃう……)


そして、主人公の命も危うくなってしまう。それは避けなくては。


「……うーん……」


地図は見た。旧図書館の場所も確認した。さぁ、どう行けばたどり着けるのか。

私は頭を抱える。そのほうが少しでも思い出せそうだからだ。


(……旧図書館がある棟の近くに、特徴的な建物があったような……確か……あっ、温室!温室って書いてあった気がする!)


温室といえば、いくつかあるが、地図にあったように、独立していた温室は一つしかなかったはず。

そう、学園探検の最中、何度か見かけたあの温室だ。


(それなら話は早いわ)


温室を見かけたのは、図書室に行く道すがら迷ったときだ。だとすれば、図書室へ向かえば、もしかするとたどり着けるのではないか。そう思って、私は大慌てで図書室を目指した。

そして──思った通り、温室にたどり着いた。


(……方向音痴が役に立つ日がくるなんて……!)


嬉しいような、悲しいような……。ちょっと複雑だけども。


(まぁ、いいか。旧図書館は多分あっちね)


ここまでくれば、流石に迷わないはず。そう思いつつ、若干びくびくしながら旧図書館とやらを探す。

ちょっと不審なくらいうろうろして、やっと古びたそのプレートを見つけ、ほっと安堵したのもつかの間だった。


「……動くな」

「……っ、」


いつの間にか、背後から首もとにナイフが宛がわれていて、怯えるより先に内心叫んでしまった。

でたー!お約束ー!!


「歩け」

「……」


きっとエミリを人質に私をおびきだしてきた犯人だろう。

ぐいぐい押されるまま、旧図書館の中へ入る。その奥、ある本棚の前まで、私は無遠慮に押された。声からして相手は男子生徒だ。一応は兄であるロイですらやすやすと触れて来ることはないのに、まぁ、べたべたと触ってくれるものだ。


(主人公を助け出せたら……覚えてなさいよ……)


「上から二段目、一番左の本を取れ」

「え?」

「いいから取れ」

「……」


いちいち言い方が腹立たしいが、まさかナイフを宛がわれている状況で、はっきり言うわけにもいかないので、ぐっとこらえた。私は大人しく言うことに従う。

旧図書館という割りには、本棚には普通に本が並んでいて、指示された本を抜き取るのに一苦労した。


(ああもう、なんでこんなときに本?)


そうして私がいらっ、としたときだ。


カタン。

ギギギィ──。


「!」


(なっ、なにこれ)


本棚が動いた。そして私は、この状況でかなり不謹慎だとは思ったけど、内心興奮するのを止められなかった。

動いた本棚の先に、隠し通路が現れたからだ。


(うわぁ……)


「さっさと歩け」


そこは、ちょっと埃くさいけど、しっかりとした造りの通路だった。だから、恐らく前世でいうところの、なんとか宮殿の隠し通路みたいなあれと同じ感じなんだと思う。学園の昔の図書館になんで?とは思うけど、気にしたら負けの気もした。答えは出なそうなので。

ナイフを宛がわれながら、押されるがままに通路を進む。

そして、ある木製の扉の前に立ったとき、ようやく首元からナイフが外れた。


「入れ」

「……」


言葉こそ促すようなそれだけど、実際は肩を押されて部屋に押し込まれる。思ったより力が強かったせいで、私は思わず尻もちをついてしまった。


「っ、ちょ、」

「ねぇ、ここから出して!」


咄嗟に出た私の抗議の声を遮ったのは、もちろんというか、主人公・エミリである。


「……全く。うるさい女だ。」

「ここから出してよ!」


なんというか、この子は学習能力がないんだろうか、と心配になる。出してと言われて大人しく出してくれるのなら、ここまで拐ってくるわけがないだろうに。

そこでようやく、私は犯人の顔を見ることが出来たが、趣味の悪い仮面を被っていたので、髪が茶色で、目の色が黄色ってことしか分からなかった。

まあ、見えてても多分分からないかもだけども。


「……いいか、二人仲良くここで待っていろ。下手な真似をしたら、身の安全は保証しないからな」


これまたお決まりの台詞を吐いて、男子生徒は部屋を後にした。部屋に残るのは、尻もちをついたままの私と、拐われた割りには縛られてもない、意外と元気そうなエミリのみだ。

それにしても、お約束の流れ過ぎではないだろうか?いくらゲームのイベント?とはいえ、うっかり「私、なんかの撮影に巻き込まれてるだけなんじゃないの?」と、呑気にも思ってしまいそうだ。


(気を引き締めないと……)


「……ねぇ、皇太子殿下は?」

「え、」


先程まで泣きじゃくっていたはずのエミリが、それまでの様子が幻だったかのようにあっけらかんと言った。


「……殿下?」

「百歩譲って、モブのくせに、あなたが先に来たのはいいわ。いいから、皇太子はどこなの?」

「……殿下は、来ませんが……」

「はぁ?どうして?」

「どうしてって……ここに来ることを、誰にも話してないからですわ」

「はぁああ?!」


いや、あの、主人公さん……令嬢の皮が剥がれまくってますけど?


「どうして誰にも言ってこなかったのよ!?」

「……一人で来ないと、貴方の命が危ないと言われれば、誰にも話せる訳がないでしょう?」


むぐ、とエミリは押し黙った。命がと言われれば、流石に口をつぐむしかないだろう。


「……いやでも、誰にも話して来なかったんなら、誰が助けに来てくれるわけ?!」


と、思ったら気のせいだった。


「ええと……」


一応私が助けに来たつもりなんだけど。とりあえず黙って、冷静になってくれなければ、こちらの話が何も出来ない。


「あの、アーデムさん、」

「もう!なんなのよ!どうしたらいいの……こんなイベント、ゲームにないのに……!」

「えっ!ゲームにないイベントなの?!まずいじゃない!」

「え」

あっ、やば。






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