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うわ。すごい顔されてる。
「えっと、お兄さま……」
私は皇太子とディーに連れられて、学園内にある、とあるサロンにいた。夜のサロンも中々不気味なので帰りたかったけど、ターゲットというのも気になるし、なにが起こってるのか把握しないと怖いので、聞きたくなくても話を聞かざるを得なかったのだ。
そこに、ものすごい顔をした兄がいた。苦虫を噛み潰したような、ものすごい顔で。
「お前は全く……」
「はは……」
何が起こったのか全然分からないけど、私は恐らく肝試しの途中でいなくなったことになっているだろうから、また何かに巻き込まれたんだろう。兄もそれが分かっているからこそものすごい顔をしているのだ。
あ。兄の後ろにロイもいた。げんなりした顔をしている。そういえばロイって兄で友だちで護衛っぽいものだった。肝試しのグループが違ったんだからしょうがないと思うんだけど、なにか言われたのかもしれない。それか責任感みたいなので落ち込んでるのか。どんまい、ロイ。
「……リーリア、ここに座って」
「あ、はい」
皇太子に促されて、サロンにある二人がけのソファに座らされた。サロンってこんなソファあったんだ。ふかふかで座り心地がいい。
その向かいにディーと兄が座る。皇太子は上座の一人席だ。ロイは私の後ろに立った。
「……ロイ、私の隣空いてるわよ?」
「……いや、ここでいいです」
「そう?」
後ろに立たれると気が散るんだけど。まぁ、皇太子の隣にもなるのが少し気まずいかもしれないので、これでいいか。
みんなが座って落ち着いたとき、まず口を開いたのは兄だった。
「……さて、殿下。我が妹は、一体なにに巻き込まれたんでしょうか?」
「エルディ君。それは私から話を」
「……もしかして、アウクリア先生ですか……?」
「あら、よく分かったわね」
「……そりゃいつもしごかれてますからね……」
「んふふ。まずは私のこの格好の話からね」
ディーはおもむろに話し始める。人身売買のときの話はひととおり聞いたので、問題はここからだ。
「白い影の話は知ってるわよね?」
「はい。それで肝試しをすることになったんですもんね」
「……実は、白い影の話は、私と殿下たちとでわざと流したものなのよ」
「え?」
「……三ヶ月ほど前から、生徒が突然いなくなっているの。女子生徒が四人、男子生徒が二人。みんな夜、出掛けると言って寮を出たきり、行方が分からなくなっているようなの。そこで私たちは、白い影の話を流して、そもそも出掛ける生徒が出ないようにしたのよ。効果はあったわ。しばらく被害がでなかったようだから。ただ、逆に白い影への好奇心を抑えられない生徒も出てしまって、今日、肝試しが行われることになってしまった」
えっと、これってミステリーゲームかなにかだっけ?
思ってもみなかった話に戸惑いを隠せない。恋愛ゲームのはずなのに、こんな完全に事件!って感じのイベントありなの?
私が混乱してる間にも、ディーは話を続ける。
「……私たちはこれを大いに利用することにしたの。どうしていなくなるのかが分かれば、いなくなってしまった生徒たちも見つかるかもしれないでしょう?でも、他の生徒を危険にさらすことは出来ない。だから、私も生徒として肝試しに混ざったのよ」
「……女子生徒になる必要が?」
「あら。男になったらただのディートリヒ・アウクリアが制服着てるだけになるじゃない。こっちのほうがバレないのよ。実際、貴方も今まで気付かなかったでしょう?エルディ君」
「……」
兄は嫌そうな顔をした。ちょっと新鮮かも。
「うまくいけば、なにか掴めるはずだったのに、問題が起こってしまったの」
「問題?」
「……白い影が、本当に現れたのよ」
私の血の気は、サァと引いた。嘘でしょ。白い影はディーたちが流したただの嘘だと聞いて、内心安心してたのに。
「しかも女のすすり泣きつき。高等科のグループは大騒ぎよ」
「……僕たちがグループで第四庭園に向かってたとき、男子生徒と会ったよね?彼はそこから逃げてきたんだよ。その話を聞いている途中、アーデム嬢が白い影を見た。リーリアも悲鳴を聞いたんじゃない?」
そうだ。つんざくような悲鳴が聞こえて、そうと思ったら何かに引っ張られたんだから。
「……情けないことに、その悲鳴に気を取られてしまった。その間に、リーリアがいなくなっていて、血の気が引いたよ」
「でも、たまたま私は何かに引っ張られる女子生徒を見ていたの。引っ張られた方向がもう使われていない旧倉庫だったから、皇太子と手分けして探して、あそこでリーリアを見つけたというわけ。遠くからだったから、その場で助けることが出来なくて……ごめんなさいね、リーリア」
私はふるふると首を振った。ディーが見つけてくれなかったら、他のいなくなった生徒みたいに、行方不明になっていたかもしれないのだ。
とにかく、今、ここにいれてよかった。
「怖い思いをさせた。ごめんね、リーリア」
「殿下も、謝らないでくださいませ。怪我もありませんし、無事だったのでよかったですわ」
そりゃ、兄は私の台詞をじとっとした目で見てくるけど、いなくならなかっただけついてると思ってくれないと。私の場合、他の生徒と同じようにいなくなって見つからない可能性だってあったんだから。
「でもね、リーリア。言いにくいんだけど……貴方は引っ張られてあの場所にいたのよね?」
「はい」
「なら、この一件には、生徒を拐う犯人がいるということ。貴方は、その犯人のターゲットになってしまった可能性が高いわ」
なるほど、だからターゲットか。
って、納得してる場合じゃない。
「……また狙われるかは、正直分からないわ。犯人の尻尾すら掴めないから。だから、貴方も含めて、貴方の兄たちにも事情を話すべきだと思ったの。この一件が解決するまで、貴方には気をつけてもらわないといけないから」
「はぁ、」
兄の視線が痛い。あれは「お前はまた巻き込まれたのか」と思ってる目だ。私だって、巻き込まれたくて巻き込まれてるわけじゃないのに。
というか、こういうのって主人公の役割じゃない?なんで私がターゲットで、主人公は悲鳴を上げる役なのよ?
「僕とアウクリア先生も君を必ず守るよ。そして、犯人を必ず捕まえる」
「……」
な、なんか……っ。
思わず頬が熱くなった。守るとか、そんな真正面で言われると、やっぱり照れてしまう。
「あ、えっと……そうだ!いっそのこと、私が囮になって、犯人を捕まえると言うのは……」
「「「それは駄目「に決まってるだろう!!」」」
「……」
皇太子、ディー、兄に同時に怒られた。やっぱり駄目か。そっちのほうが手っ取り早いと思うのに。
そう思ったけど、兄はともかく、皇太子とディーも厳しい顔をしたので、ついぞ私はそれを口には出来なかった。




