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「そりゃ、お前が来れば皇太子も参加するかもしれないからな。ご令嬢たちは、なにがなんでもお前を参加させるだろうよ」
詰め寄られた兄は、突然やって来た私に驚くでもなくあっさり言った。
傍にいたリディガー様はびっくりしているのに。というか、びっくりさせてすみません、リディガー様。構ってる暇はないけども。
私はなおも、兄に詰め寄った。
「いいんでしょうか?そもそも皇太子殿下が、そんな危なげなイベントに参加してしまっても!」
「まぁ、駄目ってことはないんじゃないか?」
「……」
なんで貴族のための学園といってもいいこの学園で、肝試しなんてイベントが存在するのか。本当に信じられない。
私はへなへなと椅子に座り込んだ。
「嫌なら断ればよかったのでは?」
一緒に生徒会室へ入ってきたロイが困ったように言う。よく言うわ。自分だって女子生徒たちに詰め寄られて、断れずに参加することになったくせに。知ってるんだからね!
じとり、と睨むとロイはあからさまに目を逸らした。自分でちゃんと分かっているらしい。
「……肝試しなんて……お兄さま知っていました?」
「そりゃ、学園内のイベントだ。いくら生徒会主宰じゃないとしても、把握はしてるさ」
「えっ、生徒会主宰じゃないんですか?」
「まぁ、突発的なものだったからな。発案者は誰だったか……歓迎パーティーも無事終わって、更に交流を深めるため、みたいな理由だったか」
(もしかしなくても、主人公の仕業じゃ……?)
そりゃ、肝試しとかも恋愛イベント的には、仲を深めるためにもってこいだもんね。
「交流のためなら許可しないわけにもな。俺も白い影の話は気になっていたし」
「……」
「エルディ嬢、大丈夫ですか?」
「え?」
「顔色が悪いような……?」
リディガー様が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
見事正解。私は今、ものすごく体調が悪い。
「……リーア」
「はい」
「お前まさか、怖いのか?」
「……悪いですか?」
兄はびっくりしたみたいだ。なんで?令嬢的には私の反応のほうが正しいんじゃないの?
「いや。お前にも怖いものがあるのだなぁ、と」
「お兄さま!その言い草は酷いですわよ!私はか弱い貴族令嬢なんですからね!」
「か弱い……?」
ちょっと!ロイまで首を傾げないでくれる?
「とにかく!幽霊とか、信じてませんけれど、怖いものは怖いんですわ!」
肝試しなんて最悪だ。そういうのが一番怖いのだ。想像力があるほうなので、なにもなくても、勝手に想像してしまって、余計に怖さが増す。
くわっ!と言い放ったところで、兄が吹き出した。ちょっと、兄、酷すぎない?
「お兄さま!?今の話の、どこに笑う要素がありましたか?!」
「すまんすまん」
兄は私の頭を撫でてあやす。違う!そうじゃなくて、笑わないでほしいんだけど!
「お兄さま!」
「分かった分かった」
兄はようやく笑いを引っ込めた。にやにやはしてたけど。
私が睨み付けてようやく、兄は一つ咳払いをして、表情を正す。
「まぁ、交流のためとはいえ、強制ではない。お前がどうしても嫌だというなら、お兄さまが代わりに断ってやってもいいぞ?」
「……」
それはありがたい提案だったけど、あの令嬢たちのことだ。あれこれ言って、どうあっても私を参加させるに違いない。
「……殿下を参加させないようには出来ないんですか?」
「出来るわけないだろう」
「ですよね……」
そんな仲間外れみたいなことしたら、いくら高貴な皇太子とはいえ可哀想だろうしね。
「……でも、そうだな……お前が頼めば、もしかすると、参加しないでいてくれるかもしれんが……」
「……」
でもそうなると、皇太子にまで私が肝試し怖いという話、しないといけないんじゃない?
(それは、なんとなく嫌かも……)
ただでさえ、お転婆な子どものように思われてるのだ。あまり子どもっぽいところばかり、見せたくない。
「……」
はっ、と深く沈んだ思考からさめると、目の前でリディガー様が片膝をついていた。
うわー。デジャヴ。
「エルディ嬢。では、今度こそ、僕にエスコートさせてください」
「肝試しは三、四人のグループだけど、決めるのはくじだかなんからしいぞ。勝手に決められるもんでもないらしい」
「……」
「……」
「そう、でしたか……」
兄がきっぱり言うと、リディガー様は若干項垂れてしまった。あ。ちょっと可愛い。というか、リディガー様も参加するんだ。
「……」
そうだ。もし参加するとしても、グループ次第では、本当に肝試ししないで済むんじゃない?
(よし、)
兄に頼めない以上、お願いすべきは自分の運だ。私は祈った。
知っている人とグループになって、肝試し自体をなんとか回避出来ますように!
人生、そううまくはいかないことは、分かっていたはずなのに。




