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(えらい目に遭った……)
国王と皇妃という嵐が過ぎ去った後、一瞬の沈黙のあとに私を襲ったのは、貴族令息令嬢の自己紹介の嵐だった。
そりゃ、国王から直接話し掛けられられた上、皇女と仲良しだと公表してしまったようなものだ。その相手が話し掛けやすい、ぱっとしない伯爵令嬢とくれば、ともすればお偉いさんとお近づきになるためにも、まずはこちらと知り合っておこうと思うのも無理はない。無理はないだろうけども!あんなことになるなんて思ってもなかった。
「……な、何が起きたのか分からなかった……」
ロイが放心したように言う。ごめん、一人が怖すぎていつまでも捕まえてて。ごめんと思いつつ申し訳ないとは思ってないけど。
笑顔を張り付けつつ、じりじりと後退した私とロイは、あまりの人の多さで「ちょっと!割り込まないでよ!」と令息令嬢たちが言い争いを始めた隙をつき、やっとのことで自己紹介の嵐から抜け出せたところだった。
私は、はしたないと思いつつ、息を吐いて中庭の茂みに座り込む。ロイはすでに地面に座っていた。
「あれだけ自己紹介されたのに、全く、一人も覚えてないわ……」
「俺も……」
前世を含めても、あんなに大勢の人に詰め寄られたことはない。ロイはもっとかも。
「……せっかくパーティー楽しもう、って思ってたところだったのに……」
国王は夜は長いとかなんとか言っていたけど、もう帰りたい。
こんなに目立ってしまった以上、会場に戻った途端に、再び袋のねずみ状態になってしまうだろう。
恨みがましい台詞になるのも仕方ないと思う。
「ねぇ、ロイ……」
「本当にすみません!」
咄嗟に口を塞いだ。
(この声……)
間違いないだろう。声を聞いだけで分かってしまうところがなんか嫌だけど。
座り込んでいるからか、状況がよく見えた。やっぱり、そこにいたのは主人公のエミリと、皇太子である。どうやら、皇太子の袖のカフスか何かに、エミリの髪が絡まってしまったみたいだ。
やっぱり、パーティーには乙女ゲームのイベントは不可欠なんだな、とは思ったけど、一体何をどうしたら、どういう流れでそうなるんだろう。不思議でたまらない。
「……いいよ。怪我はない?」
「はい!でも……お洋服、大丈夫ですか?」
「大丈夫。気にしないで」
皇太子は躊躇なくカフスを千切った。うわ、流石乙女ゲームの攻略対象!キザなことをなさる。
そう、思ったときだった。
(……っ)
エミリの金の髪を、皇太子の指がすべる。すみません、と謝りつつ、エミリが照れくさそうに微笑んだ。
主人公だけあって、やっぱり可愛い顔をしていると思う。あんなに近くで見たら、男の人ならたまらないかも。
(……)
目の錯覚に違いないのに、キラキラとしたなにかが、二人の周りを照らしていた。外で、夜だから、薄暗いはずなのに。
(……これって、まさか、乙女ゲームのスチルってやつ……?)
現実離れした、綺麗な光景だった。まさに、一枚の絵みたいな。ゲームのファンとかだったら、ものすごく喜ぶんだろうな、と思うくらい。完璧なシーン。
(あら……?私、あの光景、あんまり見たくない……?)
ゆっくり視線を外す。よく分からないけど、これ以上見ていたら、いつか気付かれるかもしれないから、そのせいだろう。
変な気分なのも、きっとまた、イベントに出くわしかけて、間一髪で回避したからだ。
「おい」
「え?」
「なんか……あんた、顔色悪くなってねぇ?」
「そう?さっき食べたやつがもたれたのかな?」
「……」
ロイもエミリと皇太子のやり取りを見ていたのか、見つからないように比較的声を抑えてくれている。
……別に見つかってもいいのに。
(はっ!ダメでしょ!またイベントに絡んじゃったら、なんか申し訳ないし……こんな、恋愛的に進展する絶好の機会、みたいなイベントならなおさら……)
ぽん、と肩をたたかれてびくっとした。なんか考え込んでしまったみたいだ。ロイがきゅ、と眉をひそめる。
「ロイ、なに?」
「……水持ってくるから、ここで待ってろ」
「え?」
「会場のあの感じじゃ、まだ帰れそうにないだろ?水分はとったほうがいい」
「……大丈夫だけど」
「いいから、ここを動くなよ」
「……」
「な?」
「うん……」
別に水なんていらないのに。ロイには私がどんな風に見えてたんだろう。そんなに疲れて見えたかな。やっぱりもたれてるのかも。
「……」
ふー、と息を吐いて脚を伸ばした。
ドレスって邪魔だけど、こういうときは便利だと思う。多分、今誰かに見られても、しゃがみ込んでるだけにしか見えないだろうから。まぁ、茂みに座り込んでる時点でちょっとははしたないんだろうけど。
(それこそ、見つかるのが上位貴族とかじゃない限りは大丈夫でしょ……)
「リーリア?」
「で、殿下……?」
よりによって、皇太子に見つかります?




