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結局、パーティーはロイにパートナーを頼んだ。女子生徒の猛アタックに参ってたし、私はリディガー様の誘いを「ロイと行くことにしてるので!」と断ったので、丁度よかったのだ。
でも。
「……」
「……パーティーに似合わない、浮かない顔してるぞ」
「……分かってるくせに」
私だってそりゃ楽しみにしてた。パーティーなんて、乙女ゲームの定番じゃないかと思ってはいても、やっぱりパーティーだし、サーシャも喜んで綺麗なドレス送ってくれたし。
だけど、今日まで本当に色々とあったせいで、すでに疲労困憊気味なのである。とてもじゃないけど、楽しく他の人と交流、なんて気分じゃなくなってしまった。こうして難しい顔でデザートを食べるのでやっとだ。
「せっかく、友だち増やせるチャンスだったけど……」
主人公は私がどこそこ行くたび付きまとってきたし──四割くらいは皇太子と遭遇するから、多分それ狙い──リディガー様はパートナーを断った後もちょいちょい誘いをかけてきたし──そのせいで生徒会室に行きづらくなってしまった──とにかく、色々と面倒くさかった。
はぁ、と溜め息をついていると、唐突にロイが私の視界を塞ぐ。
「……なに?」
「リディガー様はアヴェル様が止めてる。アーデムとかいう女子生徒は向こうで他の女子生徒と皇太子囲んでる」
「……だから?」
「あと、あんたを困らせてるものは?」
「……」
「ないだろ?パーティーは今日しかないんだし、楽しまないと損じゃないか?」
確かに、ロイの言う通りだ。折角のパーティー。疲れてるからって、このままケーキを食べてるだけなのももったいない。楽しみにしてたのも本当だし。
「……ロイ」
「ん?」
「ダンス出来る?」
「……出来ると思うか?」
「つまんないの」
「……そりゃ、すみませんね。というか、笑いすぎ」
「ふふ。ねぇ、今度なにかのパーティーで一緒に踊れるように、練習しといてね」
「……アヴェル様に頼んどくよ」
「じゃあ、私が優しく教えてあげるように頼んでおくわね」
なんか、気楽に話せたからか疲れが少しは消えたかも。
よし、女の子たちはやっぱり皇太子とか他の貴族令息を囲んで忙しそうだけど、少しくらいは私の相手をしてくれる子がいるかも。主人公以外で。探してみよう!
そうして私が意気揚々と立ち上がった時だった。
「国王陛下並びに、皇妃陛下、御入来!」
なんですって?!
途端に辺りが慌ただしくなった。そりゃそうだろう。この国で一番目と二番目に偉い人が、ただの学園の、新入生の歓迎パーティーに現れたのだから。
私は慌てて礼をとる。周りも次々に礼をとった。唯一、皇太子だけが困ったように眉をひそめて、胸に手をあてるだけの、軽い礼をとる。
「よい、みな、面を上げよ」
私も恐る恐る顔を上げる。国王陛下なんて初めて見た。
流石皇太子の父親といおうか。とてつもなく整ったお顔だ。
「今日は学園の慶事に一言祝いをと思い、参った。みな、楽にしてくれ」
その言葉でやっとみんなの緊張が解ける。国王の合図で音楽も再開された。というか、国王と皇妃の入来で、音楽まで止まるのね。すごい。
思わず感心していると、国王とばっちり目が合ってびくっと肩が跳ねた。
(え?なに?)
内心慌てているうちに、国王は皇妃に何か耳打ちをして、どうやらこちらに近付いてくるようだ。なんで?!
私は逃げも出来ずに、じりじり後退するロイを留めるしかなかった。この状況で一人は絶対嫌だ。
そしてとうとう、国王が目の前で止まる。
「……君がリーリア・エルディ嬢かね」
「……はい、国王陛下。リーリア・エルディ、国王陛下へご挨拶申し上げます」
「よい、楽にせよ。実は今日は、君に会いに来たのもあるんだ。こうでもしないと、いつになるか分からないからな」
(ひぃ!何それ!)
ここにいる全員の視線が瞬時に集まったのを感じた。国王直々に「会いたかった」と言われるのは恐縮だけど、今はとにかく、私を見る会場中の視線の方が怖い。
「……陛下、リーリアを怖がらせないでくれませんか」
皇太子まで加わってしまった。
「ジルディオ、いたのか」
「おりましたとも」
うわぁ、ここで喧嘩?始めないで!
ますます困っていると、皇妃と目が合った。流石、セルシアさまの母親。近くで見ると、本当に綺麗な女の人だ。
皇妃は国王の手の甲をとんとん、と軽く叩いた。国王はすぐに皇太子から視線を外して皇妃を見る。そして、思い出したように私を見た。
「そうだったそうだった。エルディ嬢、今日は君に礼を伝えにきたのだ」
(?!)
「セルシアの件、まだ私と皇妃から礼を伝えてなかっただろう。遅くなったが、あの時は本当に助かった。ありがとう」
合わせて皇妃が笑顔で頷く。私はあまりの恐れ多さに、ふるふる震えるしかなかった。
「と、とんでもないことですわ。皇太子殿下にもお伝えしましたが、セルシアさまとは仲良くさせていただいてますし、」
そこで周りがざわっとした。そりゃ、一介の伯爵令嬢が皇女殿下と仲良しだと分かればざわっとするのも頷ける。しかも、国王と皇妃から礼を言われてるとくれば、そりゃ何事か!?となるだろう。
ううっ。ものすごく目立ってる……。
「……恐れながら、私にとって当然のことをしたまでと、思っております」
国王の顔がふっと緩む。
(……やっぱり親子ね。笑い方そっくり)
ぼんやりとそう思った。
「エルディ嬢、」
「は、はい!」
「これからもセルシアと……ジルディオと仲良くしてやってくれ」
「え、あ、はい……!こちらの方こそで、ございます!」
あ。動揺しすぎてなんだか、おかしな言い回しになっちゃった。
国王がおかしそうに笑う。それから、視線を周りへ戻した。
「さあ、みな、夜はまだ長い。今夜は存分にパーティーを楽しみ、明日から、この学園の新しい一員として、励んでくれ」
そうして、国王と皇妃は嵐のように去っていった。




