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私の思考は完全に止まった。

だって、ただの伯爵令嬢が、急にかしずかれているんだから。

というか、完全に引いた。


「……」

「……アヴェル様」

「なんだ」

「ディアレデル様ってなんです?」

「……確か、建国神話かなんかに出てくる、運命の女神、とかだったような気が……」

「運命の、女神……?」


だから、こそこそしてるつもりかも知れないけど、聞こえてるってば!


「え、ええと、リディガー様?どういうことです?というか、とりあえず椅子に座ってください!」


慌てて声をかけるけど、リディガー様は依然、かしずいたままだ。


「……僕は、侯爵家の次男です」


えー……。そのまま話始めちゃうの?


「そして、昔、アルデル・カーターは我が侯爵家の家庭教師もしていました」


貴族の家を掛け持ちする家庭教師は少なくない。

というか、そのまま話を続けられると、そっちが気になって話どころじゃないんだけども。

リディガー様は気にすることなく、話を続けるみたいだ。


「アルデル・カーターは優秀でした。僕は小さいながらに勉強が好きになった。もっと勉強を教えてほしいと、アルデル・カーターへ詰め寄りました。ですが、アルデル・カーターは言ったんです。『次男が兄より優れていてはいけません。下手に争うようなことがあっては貴方も困るでしょう。次男は目立たず、うまく立ち回らなければなりません。勉強したいだなんて、もっての他ですよ』」


(あの嫌な家庭教師、令嬢だけじゃなくて、貴族令息にまでそんなこと言ってたのね)


貴族社会では確かにその考えは正しいのかもしれないけど。でも、勉強したいって子ども相手に、仮にも家庭教師が言う台詞なのかしら?


「……そんな顔をしてくれたのは、エルディ嬢、貴方だけです」


はっ。

不満な顔をばっちり見られてしまったみたいだ。流石にまずいかなと思って取り繕った。手遅れとは分かってたけど、だって、差別ダメ、絶対!な日本で生きていた身としては、いらっとしてしまうのだ。


「……貴族社会では、まぁ、アルデル・カーターの言うとおりなんでしょう。僕も我慢して言う通りにしていました。貴方が現れるまでは」

「……?」

「女とかは関係はない。雇い主の子どもが勉強を習いたいというんだから、家庭教師なら差別せずに教えろ、と、アルデル・カーターをこてんぱんに論破したと」

「……」

「僕はそれを聞いて感動しました。習いたいと思っていいんだ。教えろと言ってもいいんだ。次男の僕でも……そう、思わせてくれました」


なんとも複雑で、唸ってしまいそうなのをこらえる羽目になった。論破の話を、家族以外に知られてるなんて、思ってもなかったからだ。それを考えると恥ずかしいし、感動したとか言われると尚更恥ずかしい。


「それから僕は、素直にしたいことをしたいようにするようになったんです。だからこそ、今の僕があるのは、貴方のおかげです。まさに、僕のディアレデル様。運命の女神」

「はぁ……」


それは、私のおかげというより、その家庭教師のせいというか……。そんなに大袈裟なことなの?建国神話の女神様をたとえに出すくらい?

困って思わず兄を見た。兄とロイはすでに話を聞いてないのか、二人でこそこそ言い合ってる。そこは聞こえないように話すわけ?もう!


「……ずっと探してたんです。僕の運命を変えてくれた女の子を。やっと、会うことが出来ました」

「リディガー様、とにかく、お話は分かりましたから。座ってお話しましょう」

「いえ、ここからが本題なのです」

「「「ここから?!」」」


今度は兄とロイも一緒にハモった。

ここまできたらちょっと分かってきたような気がする。もしかして、この人変な人なの……?


「エルディ嬢、今回の歓迎パーティー、どうか僕に貴方のパートナーとなる栄光をいただけませんか?」


「ええと…………お断りさせていただきます」





「だよなぁ」

「アヴェル様、あれ、色んな意味でいいんですか?」

「……まぁ、気持ちは分からんでもないからなぁ。色んな意味で」






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