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「……」
「……」
「……なんだ」
「お兄さま、なにか言うことがありますわよね?」
「……」
「お、に、い、さ、ま!」
奥の方で、今日は女の子たちの猛アタックを回避したロイが、私のあまりの剣幕にか、準備していたティーカップを取り落としそうになっていた。確かにロイだってお兄さまだけど、今はそんなのにかまっていられない。
「昨日、待ってろというから待っていたのに、長い間待たせたあげく、自分の後輩を代わりにするだなんて!」
「あー、待たせたのは悪かった。悪いと思ってる。でもな、マルクの件は、あいつが自分から代わりに行くと言ったんだぞ?」
じとり、と兄を睨む。それだって、上司の顔色をうかがって行動する部下のごとく、そういう心理が働いていたんじゃないかと思うわけで。
「……本当だ。話したいこともあるから、ついでにって」
「それだって、リディガー様が気をつかって……」
「僕がどうかしましたか?」
「っ、」
(きゃー!)
咄嗟に悲鳴を上げるのは回避した。なんか、同じようなことが前にもあった気がする。
攻略対象って、急に登場しないといけないのだろうか。
「リディガー様……すみません、気が付かずに」
「いえ。今来たばかりですから。会長。例の件、予定通り進めます」
「おお。助かる。それより、お前からも言ってくれ。昨日は、お前が話をしたいからと、自分から申し出たと。妹がずっと怒っていて、困ってるんだ」
「お兄さま……!」
「ああ、その件でしたか……ずっと気にしてくれていたんですね。僕が会長に気を遣ったと……」
「……」
「話をしたいからと言っておいて、一番話したいことを言いそびれてしまったので、そう思われても仕方なかったですね、すみません」
え?本当に話があったの?
兄が「そら見てみろ」とばかりの顔をしてるので、足を踏みつけたかったけど、リディガー様の前だったのでなんとかこらえた。
「エルディ嬢」
「は、はい」
「よろしければ、昨日、言いそびれたお話をしてもいいでしょうか?」
「え、もちろん……」
改まって何の話だろう。
昨日、リディガー様は攻略対象だと気付いたので、聞くのがちょっと嫌な気がするけど、そんなことは言えないので、素直に頷いた。
リディガー様は、私の座っている向かいに腰をおろす。私は姿勢を正した。
「……見合いじゃあるまいし、」
「アヴェル様、お静かに」
ちょっと、聞こえてるんですけども?あんまり余計なこと言わないでほしい。
リディガー様は、兄とロイの会話なんてまるで耳に入っていないみたいだ。
「……アルデル・カーターを、覚えていますか?」
「え?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。何の話なのか予想も出来なかったとはいえ、内容があまりにも突飛過ぎて。
「あるでる……、え……?」
「ああ、あの家庭教師か」
「家庭教師……?」
兄はすぐに分かったみたいだけど、私は全くぴんとこなくて、首を傾げた。
「数年前、会長の家庭教師をしていたんでしょう?」
「お兄さまの……、」
はっ!
私が思い出したのが分かったんだろう。兄はにやりと笑った。
「お前が言い負かした、あの家庭教師だな」
居た!そういえばそんな人も居たんだった。昔のことだからすっかり忘れていたけど。
女が小さいうちから勉強なんてと、遠回しに貶してきた男を、あらゆる言葉を駆使して言い負かしたあげく、追い出したことが、確かにあった。
「噂は、本当だったんですね」
「う、噂……?」
嘘。なにか噂になってたの?顔が引きつった。変な噂だったら、ご令嬢としては致命的だ。
私は別にいいんだけど、母やサーシャが倒れかねない。
「噂とは、どのような……?」
聞きたくないけど、聞くしかない。私は意を決して尋ねた。
すると、リディガー様は、答えるどころか席を立つと、何故か私の座っている椅子に寄ってきて、その場で片膝をついた。
「え?!」
(なんで?!)
「やはり……僕のディアレデル様」
「はい?!」




