『フォーチュン・プリンシア』皇太子
つまらない。煩わしい。
幼い頃からそうだった。
皇太子で良かったと思ったことは、ほとんどない。
特に貴族は、ほとんどが皇太子という身分だけをみているから。そして、自分の損得勘定でしか行動しないから。
だからこそ、ジルディオがどう思っているのかなど考えずに行動が出来るのだ。
その、子どもたちでさえも。
『お兄さま、あのご令嬢は性格が最悪ですわ』
『知っているよ。でも、あのこは優しくしてあげると、なんでも喋ってくれるから便利なんだ』
『まあ。お可哀相ですこと』
そんなこと思ってもいないくせに。
セルシアは特に、腹に据えかねているはずだ。正妃の子でなかったばかりに、女だったばっかりに、貴族どもに、子どもたちに、軽んじられるから。
『……皇太子でなくなりたいと思ったことはないけれど、なんだか色々、面倒くさいな』
10歳を過ぎた頃から、婚約者を決める動きがあったが、はっきり言われないのをいいことに、全く気付いていないで通した。
高飛車なご令嬢の相手はとてもじゃないがごめんだ。
皇太子妃、ひいては王妃になる女は、自分の御しやすい相手がいい。
『お兄さまは、本当に恋とかしないかしら?』
『なんだ、案外夢見がちなところもあるんだね』
『だって、皇太子とか皇女だからって、恋しちゃいけないなんてないでしょう?』
『それこそ面倒だよ』
『……わたし、あの、なんだか混乱しちゃって……なにも言えないままだったので、助かりました』
『……いや。彼女たちがごめんね。別に悪気はないと思うんだけど』
『いいえ!ヴァルティス様たちは、本当にマナーを教えて下さっていただけなので!私が、至らなかっただけです……!』
『そう?』
『はい』
『……』
本当にそう思ってるのか?単純にそう思った。あの令嬢たちは、マナーだなんだ尤もらしいことを言ってはいたが、心の中で、男爵令嬢ごときが、という思いがあったはずだ。だから、五人がかりで一人を囲んだのだ。
それは、話をしていればなんとなく伝わってくるはずだ。分からないなら、頭が悪すぎる。
そう思っていたけど。
『殿下!あ!すみません!あの、皇太子殿下にご挨拶致します』
『……別にいいよ。そんなにかしこまらなくて』
『……ええと、では、はい。これからは、こんにちは、と挨拶させてくださいね!』
『……うん』
『殿下、こんにちは!こんなところでどうされたんですか?あ、えっと、私は図書室に行くところです!この学園、広くって困っちゃいませんか?』
『殿下!こんにちは!え?葉っぱ?え?どこについてますか?あ!ありました!これで、取れましたでしょう?え?こっちにも?っ、ふふ!実は近道にそこの茂みを潜ってしまったんです。あ、はしたないですよね……。他のご令嬢には秘密にしてくださいね』
毎日、飽きないな。
くるくる変わる表情は、作ったものとは思えない。
(いや……作ったものでも、いいかな、と思ってる……この、僕が)
ジルディオは、生まれて初めて、この女の子を、ずっと見ていたいな、と思った。




